レゾルビンE1とD1は
中枢性および末梢性の作用によって炎症性疼痛を軽減する

Xu Z-Z, et al. Resolvins RvE1 and RvD1 attenuate inflammatory pain via central and peripheral actions. Nat Med
2010;16:592-598.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

炎症性疼痛の治療には、NSAIDsやオピオイドが用いられているが無効例や副作用の発生が稀ならず認められるOmega-3多価不飽和脂肪酸由来のレゾルビンE1 (RvE1)とD1 (RvD1)は抗炎症作用を有することが知られており、好中球浸潤や炎症促進性サイトカインの発現を低下させることがその機序と考えられている。本研究では、炎症性疼痛に対するRvE1とRvD1の効果が検討された。

【方法・結果】

マウスの足底にホルマリンを注射して起こる自発痛は特有の行動パターンを誘発するが、髄注によってRvE1 (1~3 pmol)を前投与しておくと抑制された。RvE1の受容体はG蛋白Gαiに結合するChemR23とよばれる蛋白であり、上記のRvE1の効果はGαi阻害作用のある百日咳毒素とChemR23の阻害ペプチドChemerinによって拮抗されることが示された。
ChemR23は脊髄後角神経節では、侵害刺激の受容体であるTRPV1 (transient receptorpotential subfamily, member 1)陽性ニューロンに局在しており、そのニューロンの軸索と脊髄後角における中枢側の神経終末にも発現が認められた。
足底にcomplete Freund’s adjuvant (CFA)を注射すると持続性の炎症性疼痛が引き起こされることが知られている。
CFA投与3日後にRvE1を髄注すると、CFAによって誘導された熱痛覚過敏は用量依存的に抑制された。しかも、その効果は投与15分後には明らかであった。一方、RvE1を通常のマウスに投与しても、痛覚閾値には全く影響を与えなかった。
さらに、足底にcarrageenanを注射して炎症を誘導したモデルでは、RvE1とRvD1の局所投与は熱痛覚過敏・浮腫を軽減し、かつ好中球浸潤やTNF-αなどの炎症促進性サイトカイン発現を抑制した。これは、RvE1とRvD1が中枢だけでなく末梢組織でも作用点を持つことを強く示唆する所見であった。
脊髄スライス標本にTNF-αを灌流すると自発性EPSC (excitatory post-synaptic potential)の発生頻度が上昇するが、RvE1はこれを抑制した。TRPV1作動薬であるカプサイシンを灌流するとやはり自発性EPSPの発生頻度が増加するが、RvE1とChemerainは共にカプサイシンの効果を抑制したので、RvE1によるChemR23刺激はTRPV1の下流で引き起こされる細胞内カスケードをブロックすると考えられた。カプサイシンはMAPK (mitogen-activated protein kinase)の一種であるERK (extracellular regulated-kinase)のリン酸化を促進することが知られているが、RvE1はカプサイシンによるERKリン酸化を阻害することが明らかになった。
CFAとTNF-αは機械受容性アロディニアを誘導するが、RvE1はERKリン酸化を介してNMDA型グルタミン酸受容体機能を下方調節することで、その誘導を阻害した。

【結論・解釈】

RvE1とRvD1は中枢性と末梢性の両者の機序で痛覚を抑制する。しかも、熱過敏性疼痛だけでなく機械受容性アロディニアの両者に有効である。
片頭痛の痛みは熱過敏性疼痛と共通の基盤をもつことが知られ、アロディニアも発作に際して認められる現象である。
したがって、レゾルビンは将来的に片頭痛治療に応用される可能性もあると考えられる。