片頭痛と緊張型頭痛の慢性化に関する縦断研究

Ashina S, et al. Headache characteristics and chronification of migraine and tension-type headache: A population-based study. Cephalalgia
2010;30:943-954.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛や緊張型頭痛の患者がトリプタンなどの急性期治療薬を乱用すると重症化する現象は、薬物乱用頭痛としてよく知られている。その機序は明らかでなく、中枢性あるいは末梢性のいずれに異常を求めるかについては異論がある。
本研究は、トリプタンの慢性投与によって三叉神経節ニューロンにニューロン型一酸化窒素合成酵素 (neuronal isoform of nitric oxide synthase: nNOS)の発現を検討したものである。

【方法・結果】

1989年にコペンハーゲンにおいて無差別に1000人 (25~64歳)の住民が選ばれ本研究に登録された。実際に研究に参加したのは740名であり、1991年の時点まで追跡可能であったのは死亡例などを差し引いた673名であった。
さらにこの中からデータが得られたのは549名であった。これらの対象者の中で、頭痛のある者から次の2グループが抽出された。
グループ1 (片頭痛に緊張型頭痛を合併している者あるいは合併していない者: Migraine with/without tension-type headache)
グループ2 (純粋に緊張型頭痛のみ呈する者: pure tension-type headache: pure TTH)
診断基準としては、ICHD-IIが使用された。グループ1における横断データに関しては、1989年の時点で64名の片頭痛患者が確認されている。この中で、1年間に180日以上頭痛を認める患者は6名存在した。これらの群では、頭痛薬の日常的使用が83.3%に行われており、発作性頭痛を認める患者群に比較して有意に高かった。また、頭痛発作予防薬投与例が33.3%で、発作性頭痛患者に比較して高かった。2001年時点での状況を含めた縦断データに関しては、片頭痛患者の中で22名は寛解していた。5名は慢性頭痛の状態が以前と同様に認められ、7名は新規に慢性頭痛へと変容していた。
これら12名に注目して急性期薬物乱用と頭痛予防薬投与の因子を補正した解析を行ったところ、1989年時点で、拍動性頭痛・強度の頭痛・光過敏・音過敏が認められていた症例と個々の発作時間が長い症例が予後不良であった。
グループ2においては、1989年の時点で8名がCTTHであった。CTTH症例では、日常的な頭痛薬の使用・頭痛予防薬の使用が、発作性緊張型頭痛症例に比較して有意に高率であった。また、発作性緊張型頭痛患者では、体動による頭痛の増悪がCTTH症例に比較して高率に認められた。縦断データの解析においては、片側頭痛・悪心を呈する症例と個々の頭痛発作時間が72時間を超える症例で予後不良であった。

【結論・解釈】

本研究は、比較的多くの対象者を追跡した縦断研究である点は非常に貴重である。片頭痛および緊張型頭痛において、将来的に慢性化を呈する症例は、上記に述べたような頭痛性状を呈し、頭痛発作時間が長い傾向にあることが明らかとなった。