くも膜下出血を示唆するハイリスクな臨床的特徴を解析した前向きコホート研究

Perry JJ, et al. High risk clinical characteristics for subarachnoid haemorrhage in patients with acute headache: prospective cohort study.
BMJ 2010;341:c5204.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

救急外来を訪れる頭痛患者の診療でもっとも重要な問題は、くも膜下出血 (SAH)を見逃さないことである。頭部CTや腰椎穿刺を行えば診断は確実にはなるものの、それらの検査を行うことで一人の患者にかかる診療時間は延長し、合併症のリスクも随伴する。本研究は、臨床的特徴のみから、どこまで急性頭痛を呈する患者をSAHと診断可能かを検討した臨床研究である。

【方法】

2000~2005年にカナダの6つの大学系列の教育病院で施行された多施設共同前向き研究で、急性頭痛 (1時間以内に頭痛強度のピークが認められた症例)を呈し、来院時点で意識清明であった16歳以上の患者を対象にした。なお、外傷性の症例、過去6ヶ月間に同様の頭痛が3回以上認められた症例、新規の神経学的異常所見、脳動脈瘤やSAHの既往がある症例などは除外した。患者の診療は救急指導医あるいはその監督下にあるレジデントが担当した。SAHの診断は、造影剤を使用しない頭部CT撮影でくも膜下腔における高信号、髄液検査でのキサントクロミア、髄液の最終サンプルにおける5×106 /L以上の赤血球のいずれかを認め、かつ脳血管造影で動脈瘤か動静脈奇形が確認された場合に確定とした。救急外来で頭部CTと髄液検査のいずれも行われずにフォローアップからはずれた症例に関しては、救急外来受診から1ヶ月後と6ヵ月後に電話による経過観察確認が行われた。SAH診断の予測変数 として26項目設定し、実際にどの程度SAHの診断に寄与するかについて検討された。

【結果】

1999名の患者が登録され、133名のSAH患者が認められた。対象者の平均年齢は43.4歳で60.4%は女性であった。78.5%の患者は、これまでの人生の中で最悪の頭痛であったと回答した。設定したSAH予測変数の中で16個が有用であることが判明し、再帰的分割によってこれらの変数の組み合わせることで、3つの臨床的なデシジョン・ルールを導きだした (下表)。これらのルールの感度は100%で特異度は28.4~38.8%であった。また、これらのルールを適応した場合に、頭部CTあるいは腰椎穿刺の施行率を現行の82.9%から63.7~73.5%に減らせる可能性があることが明らかとなった。

【結論】

急性頭痛患者の臨床的な特徴をとらえることでSAHを予測することは可能と考えられ、今回導き出されたデシジョン・ルールを適用することで、より選択的に検査を施行し、より正確にSAH患者を診断するのに役立つと考えられた。
なお、40歳以下のSAHの患者も当然存在するので、年齢のみでSAHの可能性を否定するべきでないことは言うまでもない。

ルール1
年齢>40歳
頸部痛あるいは頸部硬直の訴え
周囲の人間によって目撃されている意識消失
労作に伴って発症した頭痛

ルール2
救急車による来院
年齢>45歳
少なくとも1回の嘔吐
拡張期血圧>100 mmHg

ルール3
救急車による来院
収縮期血圧>160 mmHg
頸部痛あるいは頸部硬直の訴え
年齢45~50歳