片頭痛における視床―大脳皮質ネットワーク動態の異常

Tu Y, et al. Abnormal thalamo-cortical network dynamics in migraine. Neurology 2019;92:e1–e11. doi: 10.1212/WNL.0000000000007607.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

視床は多くの感覚入力の統合や皮質入力の調節などに関与しているが、視床の機能異常が片頭痛病態で重要な役割を果たしているという報告は多い。近年、functional MRI (fMRI)を用いた機能的結合性の検討が活発に行われている。機能的結合性は静的なものではなく、変化を呈することが知られ、安静状態で検査を施行している間にも動的な変化が捉えられることが明らかになってきた。本研究では、片頭痛患者と健常人において動的な機能的ネットワーク結合性 (dynamic functional network connectivity: dFNC)を比較することで、片頭痛患者における視床―大脳皮質ネットワークの異常を実証している。

【方法・結果】

89名の前兆のない片頭痛患者と70名の健常者を対象とした。片頭痛患者の発作頻度は5.6 ± 3.3/月であったが、72時間以内には発作がないことを確認して検査を行った。本研究のdFNCの評価法は、全脳における安静時fMRIのデータを様々な独立したコンポーネントに分解し、その中から空間的活性化マップを用いて内因的コンポーネントネットワーク (intrinsic component network: ICN)を抽出した。その中から、内側および後部視床における2つのICNを中心に解析を行った。次に各ICN間の有意な機能的結合性をピックアップし、それをプロファイリングした。また、脳機能領域を皮質下ドメイン (SC)、聴覚ドメイン (AUD)、視覚ドメイン (VS)、運動感覚ドメイン (SM)、認知制御ドメイン (CC)、デフォルトモードドメイン (DM)に分画した。データ取得は6分間のスキャンを単位として行ったが、繰り返し認められる5つのパターンを抽出し、それをState 1~5と定義した。片頭痛患者は、State 1の状態が健常者に比較して高頻度に見られることが明らかとなった。また、健常者のState 1では、SMとVS内部において強い正の結合性、SCとVS、SM、AUD間の負の結合性、DMとAUD、SM、VS間の負の結合性が観察された。一方、片頭痛患者ではSCとVS間およびVSとDM間での結合性が健常者に比較して低下していたが、VSとSM間の機能的結合性は上昇していることが明らかなった。これらの異常の有無は、光過敏や音過敏の存在と明らかな関連性は認められなかった。また、State 1における後部視床 (視床枕に相当)と中後頭回の間の負のdFNCの強さが頭痛頻度と有意な相関性を示し、後部視床と楔前部との正のdFNCの強さも同様に頭痛頻度と有意な相関性を示していた。また、位相幾何学的な解析から、片頭痛患者では健常者に比較して、機能的結合性の変換効率が不良であることも明らかとなった。

【結論・コメント】

片頭痛患者においてdFNCが異常を呈することを初めて報告した研究であり、視床枕と大脳皮質の結合性の異常も明らかとなった。後部視床に相当する視床枕は硬膜由来の三叉神経シグナルが伝達してくることが示されており、片頭痛病態と関連が深いことが知られている。また、反復性片頭痛の発作間欠期には慣れの欠如 (lack of habituation)が認められるが、その原因は視床と大脳皮質の連携の異常であるthalamo-cortical dysrrhythmiaと考えられている。本研究で明らかになった視床―大脳皮質ネットワーク動態の異常はそのようなパラダイムを支持すると考えられる。