片頭痛患者における三叉神経核の神経活動性変動

Stankewitz A, et al. Trigeminal nociceptive transmission in migraineurs predicts migraine attacks. J Neurosci 2011;31:1937-1943.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

背景・目的:片頭痛の病態は詳細に関しては不明な点が多いが、三叉神経血管系の活性化による血管拡張や血漿の血管外漏出といった末梢性の変化に加えて、中枢側の異常も重要と考えられている。それを支持する証拠としては、片頭痛間歇期における大脳皮質興奮性や痛覚伝達に関連する脳幹諸核の異常を示す機能画像データがある。しかし、そのような異常が、片頭痛発作とどのような時間的関係で認められるのか、どの程度長く持続するのかについては詳細に検討されていない。本研究では、functional MRI (fMRI)を用いて、三叉神経系への侵害性の入力によって引き起こされる自覚的な疼痛強度と神経活動の変化が、片頭痛患者と健常者との間で異なるのか、さらに片頭痛患者においては、そのような変化が発作との時間的関係で変動性を示すのかの2つの点について検討を加えている。

【方法】

20名のICHD-IIの診断基準を満たした片頭痛患者と年齢・性別の一致した健常者を対象とした。片頭痛患者は女性15名・男性5名からなり、そのうち7名が前兆のある片頭痛を呈していた。なお、精神疾患の合併や発作予防薬を服用している者は対象から除外された。侵害刺激は、気体アンモニアの鼻腔投与により施行した。対照刺激としては、バラの香料あるいは無臭空気が使用された。1セッションにつき、これらのいずれかの刺激が無作為に15回加えられた。被検者は、それらの刺激の強さを10段階評価で回答した。fMRIには、3テスラMRIが用いられ、blood oxygenation level-dependent (BOLD)信号の変化を活性化の指標とした。

【結果】

上記の片頭痛患者20名を対象に、20名において発作間歇期 (interictal)に、13名において発作中 (ictal)にデータが取得された。また、10名については、発作直前 (preictal: 発作開始48時間以内)に検査が施行された。侵害刺激の自覚的な強さに関しては、いずれの時期の片頭痛患者のデータと健常者のデータとの間で有意な群間差は認められなかった。fMRIでは、片頭痛患者と健常者において、二次体性感覚野・視床・島皮質・扁桃体・帯状回・小脳・尾状核・運動野については同等のBOLD信号の変化が観察された。三叉神経核に関しては、両者で異なる変化が検出された。片頭痛患者では三叉神経核のBOLD信号変化が、次の発作への時間間隔が短くなるに比例して上昇する傾向が認められた。また、BOLD信号変化を片頭痛の各時期と健常者で群間比較すると、発作間歇期は健常者に比較して低値を示した。片頭痛発作直前にBOLD信号強度変化は高くなったが、発作中はむしろ低下し、発作間歇期と比較しても低値であった。また、片頭痛発作中にのみ橋の吻側にBOLD信号変化の上昇部位が観察された。

【考察】

片頭痛患者においては、三叉神経核の神経活動性は変動を示し、特に発作間歇期から発作直前に活性化される可能性が示された。また、過去の研究から橋の吻側に片頭痛発生器 (migraine generator)の存在が示唆されているが、本研究の結果は、同部位での神経活動の活性化は片頭痛発作による二次的な現象である可能性を支持する。