三叉神経一次ニューロンから三叉神経頸髄複合体への神経伝達の有効な抑制にはドパミンとセロトニン両者の機能が重要

Charbit AR, et al. Trigeminocervical complex responses after lesioning dopaminergic A11 nucleus are modified by dopamine and serotonin mechanisms. Pain 2011;152:2365-2376.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛発作頓挫に有効なトリプタンは、セロトニン受容体5-HT1B/1D作動薬であるが、同受容体は三叉神経終末や血管だけでなく、三叉神経脊髄路核尾側亜核や上位頸髄 (C1・C2)からなる三叉神経頸髄複合体 (trigeminocervical complex: TCC)にも存在することが知られており、三叉神経一次ニューロンと二次ニューロンの間の神経伝達を阻害する。一方、視床下部に存在するドパミン作動性A11ニューロンはTCCへ下行性線維を送ることが知られ、TCCにはD2受容体が存在する。本研究では、TCCにおいてセロトニンおよびドパミンが三叉神経の神経伝達にどのような作用を示すかを検討している。

【方法・結果】

Sprague-Dawleyラットを用いて、中硬膜動脈近傍の硬膜を双極電極で刺激して、TCCで同刺激に反応するニューロンの電気活動を記録した。これと平行して、顔面V1領域の侵害刺激 (pinching)と非侵害性刺激 (brushing)に対する反応も記録した。A11ニューロンの破壊によって、硬膜電気刺激とV1領域への侵害性および非侵害性刺激によって起こるTCCニューロンの電気活動はいずれも20%程度の増強を呈した。しかし、A11ニューロン破壊15分後にナラトリプタンを投与したところ、硬膜電気刺激後の電気活動はA11破壊前値とほぼ同様のレベルを示した。V1領域の侵害性刺激後の電気活動についても、A11破壊による増強効果は認められなくなったが、非侵害性刺激によって誘発される電気活動に対する増強効果は残存していた。一方、選択的D2受容体作動薬であるquinpiroleをA11ニューロン破壊15分後に投与したところ、硬膜電気刺激による電気活動は破壊前のレベルに比較して24%低下した。V1領域への侵害性刺激による電気応答も破壊前のレベル以下に低下したが、非侵害性刺激後の電気活動は、ほぼ破壊前のレベルと同程度であった。さらに、quinpiroleとナラトリプタンの同時投与を行ったが、いずれの刺激によって引き起こされた電気活動もquinpirole単独投与時とほぼ同様の傾向を示し、ナラトリプタンによる明らかな相加効果は確認されなかった。次に、A11ニューロン破壊後に、強力かつ選択的な5-HT1B/1D阻害薬であるGR127935をqinpiroleと同時投与した。その結果、硬膜電気刺激とV1侵害性刺激による電気活動は、破壊前のレベルとほぼ同様の程度であったが、V1非侵害性刺激による電気活動は破壊前に比較して亢進していた。また、TCC切片の免疫染色を行ったところ、D2受容体および5-HT1Bと5-HT1D受容体が同じニューロンに共存していることが確認された。

【結論】

硬膜電気刺激および顔面の侵害性刺激および非侵害性刺激の3つの異なる三叉神経への刺激が引き起こすシグナルがTCCへ伝達される際に、D2受容体と5-HT1B/1D受容体の刺激は抑制的に作用することが示された。また、A11由来のドパミン作動性ニューロンが、上記3つのシグナルのTCCへの伝達を全て抑制するには、同時に5-HT1B/1D受容体を介したセロトニン作動性ニューロンの作用が必要であると考えられた。以上より、三叉神経一次ニューロンと二次ニューロンとの間の神経伝達阻害を片頭痛の治療戦略とした場合、ドパミンおよびセロトニン作動性ニューロンの両者の機能を増強させる手段を講じるべきと思われる。