新規変異を有する家族性片麻痺性片頭痛の遷延性前兆に認められた神経血管性変化

Iizuka T, et al. Neurovascular changes in prolonged migraine aura in FHM with a novel ATP1A2 gene mutation. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2012;83:205-212.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

家族性片麻痺性片頭痛 (familial hemiplegic migraine: FHM)は、現在のところCACNA1A・ATP1A2・SCN1Aの遺伝子異常が原因で起こる病型が知られており、それらの遺伝子異常は神経系のイオン環境やグルタミン酸濃度上昇を引き起こすことで、片頭痛の前兆の発生に重要と考えられている大脳皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)発生に寄与すると思われる。本研究では、ATP1A2の新規変異を有するFHM2患者の前兆時のSPECT所見を詳細に検討している。

【方法・結果】

発端者は42歳女性で12歳時から片頭痛を呈していた。その母親 (69歳)は38歳時より片頭痛を認めており、39歳の妹は12歳時より前兆のない片頭痛を認め、かつ最近になり発作に際して下肢筋力低下を認めるエピソードを1回経験した。いずれの患者においても小脳失調は認められなかった。これら3名の患者の遺伝子解析を施行し、全員がATP1A2遺伝子にp.H916L (c.2747A>T)変異をヘテロに有することが確認された。発端者は、片頭痛発作に際して体温上昇・意識変容・失語・片麻痺 (発作によって麻痺側が変化)などが認められ、その持続時間は4~10日と遷延性であった。麻痺は頭痛と対側に認められた。片麻痺などの神経学的所見は遷延性前兆と考えられた。発端者およびその母親では画像検査や脳波が施行され、検査を施行し得た8回の発作のうち5回で麻痺と対側の大脳半球にSPECTでhyperperfusionを認めた。また、2回の発作では麻痺と同側の大脳半球にhypoperfusionを認め、1回の発作では麻痺と対側の大脳半球に認められた。脳血流の異常が認められた対側小脳にはcrossed cerebellar diaschisisが認められた。また、hypoperfusionを示す部位が次第に拡延する現象も観察された。MRAにおいては、hyperperfusionを示す側の中大脳動脈 (MCA)に拡張を認めた例は4回あったが、1回の発作ではMCAが拡張していたにもかかわらずhypoperfusionが認められた。MRIのenhanced FLAIRでは、1回の発作で麻痺と対側の大脳半球に浮腫性変化が観察された。MRスペクトロスコピーでは各種ピークに異常は認められなかったが、脳波では麻痺の対側でα波が減弱し低振幅徐波が認められた。

【結論】

本例では、遺伝子変異部位はATP1A2の8番目の膜貫通部位に位置するアミノ酸変異を引き起こすが、このドメインでの変異は本症としては稀なものである。脳血流変化に関しては、多くの例で麻痺と対側にhyperperfusionが観察されていることから、血流と神経機能の間にuncouplingが生じているものと推測された。著者らは、そのメカニズムとして、機能異常を示す半球で三叉神経や副交感神経が持続的に活性化を受けてCGRPやアセチルコリンなどの血管拡張物質が分泌された結果、脳表血管の拡張が引き起こされてhyperperfusionが生じている可能性や、アストロサイト由来の血管拡張物質によって脳実質内の小動脈の拡張によってhyperperfusionが起きている可能性を挙げている。