ニトログリセリン誘発性片頭痛発作の予兆期における脳活性化部位の検討

Maniyar FH, et al. Brain activations in the premonitory phase of nitroglycerin-triggered migraine attacks. Brain doi:10.1093/brain/awt320

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

PETなどの機能画像を用いた研究によって、自然発生あるいはニトログリセリン誘発性の片頭痛発作に伴って橋背側が活性化されることが明らかにされている。橋背側の活性化は、スマトリプタン投与後も持続して観察されることから、頭痛の結果生じたものではなく頭痛発生機構と密接に関連した現象ではないかと考えられている。もし、後者の考えが正しければ頭痛が起こる前から同部位の活性化は認められるはずである。片頭痛患者の一部では、頭痛発作の前に予兆を経験する患者がおり、その代表的な症状は、疲労感や食欲変化などである。そのような予兆を経験する患者は、約50%の確率で頭痛発作を予知できるとされている。ニトログリセリンを片頭痛患者に投与すると、数時間後に片頭痛発作が誘発されるが、同薬は患者に予兆の症状も引き起こすことが知られている。本研究では、ニトログリセリン誘発性片頭痛発作において、予兆期・頭痛発作時のH215Oを用いたPETを施行し、発作間歇期のベースラインと比較して脳内の活性化部位を検索している。

【方法・結果】

25名の前兆のない片頭痛患者を対象にした。間歇期にH215Oを用いたPETを施行して、ベースライン測定を行った。ニトログリセリンは0.5 µg/kg/分の速度で20分かけて静注した。予兆期の測定は、静注開始後67 ± 34分後に施行された。予兆の症状としては、疲労感・頸部硬直・口渇の頻度が高く、それ以外では頻尿・光過敏・悪心・あくび・気分変調が観察された。さらに、25名中16名で数時間の潜時をおいて片頭痛発作が誘発され、頭痛強度が中等度あるいは重度に達していた時に発作時のスキャンが行われた (ニトログリセリン投与開始後132 ± 69分後)。本研究の対象者では、頭痛は右側か両側に認められた。ベースラインに比較して予兆早期に有意に活性化される部位として、後外側視床下部・中脳被蓋野・黒質・中脳水道周囲灰白質・橋背側・後頭葉皮質・側頭葉皮質・前頭前野が同定された。予兆後期には、橋背側の活性化は継続して確認されたが、視床下部や大脳皮質の活性化は明らかでなかった。一方で、右視床枕と左視床の活性化が認められた。橋背側の活性化は頭痛発作時にも認められたが、視床下部と中脳水道中心灰白質の活性化は認められなかった。

【結論】

予兆期に認められた腹側被蓋野と視床下部の活性化は予兆の際に認められる症状と関連性が深いと考えられる。例えば、あくびはドパミン受容体の活性化を示す症状であるが、これには腹側被蓋野のドパミン作動性ニューロンが関与していると解釈でき、頻尿と口渇は視床下部バゾプレッシンの分泌異常が原因であると推測できる。さらに、腹側被蓋野は視床下部へ投射しており、外側視床下部の刺激は腹側被蓋野や側坐核におけるドパミン放出を促進するといったポジティブフィードバックが起こることで、食欲変化の出現も説明可能である。一方、橋背側の活性化部位は青斑核に相当すると考えられる。青斑核はノルアドレナリン作動性ニューロンが存在し、血管トーヌスや大脳皮質興奮性を調節する機能を有し、さらには疼痛制御にも関わっている。予兆期の段階で活性化されているため、単に頭痛が起きた結果、疼痛抑制をするために活性化されているわけではなく、片頭痛発作を引き起こすメカニズムの上流側で重要な役割を果たしているものと考えられる。また、大脳皮質は予兆期には活性化されているが頭痛発作時には活性化が抑制されることは、大脳皮質由来の事象関連電位が発作間歇期にはhabituation (慣れ)の障害を認めるものの、頭痛発作時には正常化する現象と関連性が深い所見ではないかと推察される。
解釈:本研究の結果は、予兆の症状が視床下部異常に起因している可能性を支持している。これとは独立して活性化されている橋背側は、片頭痛発生に重要な働きをしていると考えられ、いわゆる片頭痛発生器 (migraine generator)として作用しているのではないかと推察される。また、本研究ではいずれも前兆のない片頭痛症例が対象であったが、今後は、スキャンの時期をうまく設定してsilent auraを思わせるような大脳皮質の活性変化が認められないかを検討するのも重要と考えられる。