抗CGRP抗体ALD403の頻回な発作を有する片頭痛患者に対する予防効果

Dodick DW, et al. Safety and efficacy of ALD403, an antibody to calcitonin gene-related peptide, for the prevention of frequent episodic migraine: a randomized, double-blind, placebo-controlled, exploratory phase 2 trial. Lancet Neurol 2014;13:1100-1107.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛は有病率と支障度の両者が高い疾患であり、社会に対して莫大な経済損失を与えている疾患である。また、発作回数が多く、適応があるにも関わらず予防療法を受けていない患者が相当数いることが問題点として指摘されている。カルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)は、片頭痛病態で重要な役割を果たしていると考えられており、実際に小分子CGRP受容体拮抗薬が片頭痛急性期治療に有効であることが実証されている。これを受けて、遺伝子操作によってヒト化された脱シアル酸化IgG型モノクローナル抗体ALD403が開発された。ALD403はヒトCGRPαおよびβに強力かつ選択的に結合することが知られている。ヒト投与後の血漿中半減期は31日であり、持続性も高い。本論文では、ALD403の片頭痛予防効果と忍容性を評価した第II相臨床試験の結果が報告されている。

【方法】

北米の26施設で行われたランダム化プラセボ対照二重盲検試験であり、基本的に、1年以上の病歴を有し50歳前に診断された18~55歳の片頭痛患者を対象とした。さらに、スクリーニング期間前3ヵ月およびスクリーニング期間中において、片頭痛を認める日が月に (28日中で)5~14日であることをエントリーの条件とした。薬剤の使用に関しては、急性期治療薬の使用が28日中14日以下で、トリプタンの使用はそのうちの10日以下であることを条件とした。また、ボツリヌス毒素を含む片頭痛予防薬あるいは予防効果が知られているサプリメントを定期的に使用している患者、慢性片頭痛および特殊型片頭痛患者は除外された。対象となった患者は、ランダムにALD403投与群とプラセボ投与群に割付けられた。また、スクリーニング期間中の28日間において片頭痛を認めた日が9日以下であった群と10日以上であった2つの群に細分化された。ALD403投与群では、ALD403を1時間かけて1000 mg点滴静注の単回投与が行われた。プラセボ投与群では生食のみが点滴静注された。その後、2, 4, 8, 12, 24週後に来院してもらい、片頭痛の病状と有害事象の有無が評価された。一次評価項目は、投与後5~8週における片頭痛を認める日数のベースラインからの変化と設定された。二次評価項目は、投与後1~4週および9~12週における片頭痛を認める日数のベースラインからの変化とした。その他、レスポンダー率 (片頭痛を認める日数がベースラインの50%以上、75%以上あるいは100%減少した患者の率)や片頭痛頻度 (4週間における発作回数)、HIT-6スコア、MSQ (migraine specific quality of life instrument)スコアなどが評価項目に含められた。

【結果】

2013年1月28日~同年12月23日の期間中スクリーニングが行われ、最終的にALD投与群81名およびプラセボ投与群82名が対象となったが、ベースラインのデータにおいて両群間で有意差はなかった。なお、ベースラインの片頭痛を認める日数は、ALD403投与群で8.4 ± 2.1 (mean ± SD)日/28日、プラセボ投与群で8.8 ± 2.7 (mean ± SD)日/28日であった。投与後5~8週における片頭痛を認める日数のベースラインからの変化はALD403投与群で-5.6 ± 3.0 (mean ± SD)日/28日であり、プラセボ投与群で-4.6 ± 3.6 (mean ± SD)日/28日であり、その差は有意であった (群間差: -1.0, 95%信頼区間-2.0~0.1, p = 0.0306)。同程度の効果は、投与後9~12週においても認められた。一方、有害事象に関してはALD403投与群で52%、プラセボ投与群で57%の患者で発現が見られた。上気道感染、尿路感染、疲労感、背部痛、悪心・嘔吐や関節痛の頻度が両群共に高かった。また、ALD403の薬物動態に関しては、平均最高血漿中濃度は336.4 ± 79.9 (mean ± SD)・g/mlであり、点滴静注開始後4.8時間で認められた。平均血漿中半減期は27.9日であった。

【結論】

ALD403単回投与は比較的高頻度の発作を認める片頭痛患者に対して12週間にわたって発作予防効果を有する可能性が示された。また、プラセボ群に比較して有害事象出現の明らかな増加がなく、安全な薬剤と考えられた。

【コメント】

本研究は、抗CGRP抗体が片頭痛発作予防効果を有することを実証した点で貴重である。以前に、LY2951742にも片頭痛予防効果が第II相臨床試験で証明されたが、LY2951742が2週間に1回の投与が行われたのに対して、本研究では単回投与であった点が大きく異なる。患者負担や医療コストの面からは単回投与が好ましいため、より半減期の長いALD403の有用性は大きいと考えられる。また、本研究では比較的発作頻度の高い反復性の片頭痛症例を対象にしており、抗CGRP抗体が比較的重症の片頭痛患者にも有効である可能性を示した点も評価できる。