慢性片頭痛患者の頭皮血管ではTRPV1発現が亢進している

Del Fiacco M, et al. TRPV1, CGRP and SP in scalp arteries of patents suffering from chronic migraine. J Neurol Neurosurg Psychiat 2014 Oct 6. pii: jnnp-2014-308813. doi: 10.1136/jnnp-2014-308813.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛発作における頭痛発現機序については、末梢起源なのかあるいは中枢起源なのかという論争は現在でも続いている。末梢性機序の中でも、浅側頭動脈などの頭皮血管における侵害性刺激の役割に関しては否定的な考えがある一方で、慢性片頭痛症例に対して頭皮動脈結紮が有効であるとする報告もあり、少数ながらそのような手術を施行している施設が存在する。TRPV1 (transient receptor potential vanilloid subfamily, member 1)は42℃を超える熱、プロトン、カプサイシンなどによって活性化されるカチオン・チャネルであり、三叉神経や後根神経に存在して侵害性刺激を疼痛シグナルに変換する役割を担っている重要な分子である。本研究では、手術標本を用いて慢性片頭痛患者の頭皮血管におけるTRPV1の発現をカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)とサブスタンスP (substance P: SP)と共に検討している。

【方法】

2009年1月~2013年2月においてイタリアおよび南アフリカの施設で施行された薬物治療に抵抗性の慢性片頭痛症例に対する頭皮動脈結紮術によって得られた標本を対象とした。17名の慢性片頭痛患者から、浅側頭動脈 (superficial temporal artery: STA)あるいは後頭動脈 (occipital artery: OA)を含む頭皮組織が得られ、対照サンプルは脳腫瘍や動脈瘤手術を受けた患者から収集された。それらのサンプルを4%パラホルムアルデヒドで固定後、厚さ12μmの凍結切片を作成し、TRPV1、CGRP、SPに対する抗体を用いて免疫染色を施行した。また、神経線維の同定には抗PGP9.5抗体が用いられた。3枚の切片の観察視野中において陽性線維の全長を測定し、その値を観察野面積で割った数値を密度と定義し、慢性片頭痛患者群と対照群を比較した。

【結果】

TRPV1、CGRP、SPの発現は共に血管壁の外膜の中膜との境界部付近に分布する神経線維を中心に認められた。TRPV1陽性線維の密度は、慢性片頭痛群で0.60 ± 0.51 (mean ± SD, 範囲: 0.18~1.83) μm/μm2に対して、対照群で0.22 ± 0.17 (mean ± SD, 範囲: 0.09~0,49) μm/μm2であり、有意差が認められた (Mann-Whitney U = 18.0, p = 0.039)。各症例の分布を比較すると、慢性片頭痛群17例のうち特に5例でTRPV1発現が亢進していた。一方、CGRPおよびSPの密度に関しては両群間で有意差を認めなかった。なお、TRPV1発現量と年齢・罹病期間・性差の影響を検討したが、明らかな相関性は認められなかった。

【結論】

慢性片頭痛の頭皮血管においてTRPV1発現が亢進していることが明らかとなった。特に、一部の症例で発現レベルが高かったことから、慢性片頭痛に末梢でのTRPV1発現亢進が関連している症例と関連していない症例のサブセットに分けられる可能性も示唆された。

【コメント】

慢性片頭痛の頭皮血管に分布する三叉神経においてTRPV1発現亢進を初めて示した研究である。TRPV1は侵害性刺激を疼痛シグナルに変換するだけでなく、CGRPの放出にも関与するため片頭痛病態に密接に関わっている可能性はある。また、片頭痛発作に対して、TRPV1受容体拮抗薬の有効性が明らかでなかったことから (Summ O, et al. Cephalalgia 2013;31:172-180.)、慢性片頭痛と反復性の片頭痛では疼痛発生機構が異なる可能性も示唆された。