片頭痛患者の脳灰白質密度の時間的変動

Coppola G, et al. Evidence for brain morphometric changes during the migraine cycle: A magnetic resonance-based morphometry study. Cephalalgia 2014; pii: 0333102414559732.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

誘発電位を用いた電気生理学的検査によって、片頭痛患者では発作間欠期で慣れ (habituation)が障害されており、発作直前および発作時には慣れの障害が正常化していることが明らかにされている。さらに、侵害性刺激によるblood oxygenation level-dependent (BOLD)信号の変化も発作間欠期において周期性変化を呈することが実証されている。これらのデータから、片頭痛患者の脳機能には変動性が認められることが示唆される。高解像度MRIを用いたvoxel-based morphometry (VBM)は脳各部位の体積や灰白質密度を半定量的に計測する方法である。VBMを片頭痛患者で施行した研究はこれまで数多くあり、主に片頭痛発作頻度と脳局所の体積あるいは灰白質密度との相関性が検討されてきた。本研究では、片頭痛発作間欠期と発作時のVBMパラメーター変化が解析されている。

【方法・結果】

対象はいずれも右利きの前兆のない片頭痛患者 (MO)24名と健常者15名とした。片頭痛患者は女性19名・男性5名の内訳で平均年齢は32.3歳であった。検査には3テスラMRIが使用され、SPM8 (Statistical Paramagnetic Mapping 8)を用いて画像解析が行われた。発作間欠期のMO患者と健常者の比較では、右下頭頂小葉・右下側頭回・右上側頭回・左側頭極においてMO患者で灰白質密度が有意に低下していた。一方、発作時に測定されたデータの比較では、右レンズ核・両側島皮質・左側頭極でMO患者では健常者と比較して灰白質密度が有意に増加していた。健常者と比較して、MO患者で灰白質密度が低下している部位は認められなかった。また、灰白質密度と片頭痛の病期と発作頻度の間には明らかな相関性が認められなかった。

【結論・コメント】

島皮質とレンズ核は疼痛プロセシングに重要な作用を示すいわゆる”pain network”に属す。しかし両部位とも、片頭痛発作時でのみ健常者データと有意な差が認められていることから、ここでの灰白質密度変化は疼痛に対する一過性の反応を反映している現象と推察される。実際に、そのような変化は他の疼痛疾患でも確認されている。一方、側頭葉と頭頂葉に認められる変化は間欠期に認められることから、そのような痛みの感知に直接関連した事象ではないと考えられる。VBMで認められる灰白質変化がどのような組織学的あるいは病理学的変化を反映したものなのかに関しては一定の見解が得られていないのが現状である。しかし、短時間に変動を示すことから、シナプスや樹状突起の棘突起 (spine)数のターンオーバー・ミエリン化・微小循環など動的な変化を反映しているのではないかと推測されている。今回MO患者で発作間欠期に変化が認められた部位は、視覚や聴覚など体性感覚以外の感覚のプロセシングにも深く関与することが知られている。例えば、右下側頭回は視覚情報処理に重要な役割を果たしている。また、側頭極は全ての感覚モダリティーを用いた概念的な情報処理に関わることから、片頭痛患者は発作間欠期においてそのような機能に変化が生じている可能性が今回の研究結果から示唆される。しかし、側頭極や側頭回の灰白質密度は、発作時には発作間欠期と異なり健常者と比較して差を認めないことから、時期に応じて変動性を示すことも明らかである。以上をまとめると、前述の電気生理学手法やBOLD信号変化を観察した研究と同様、VBMの解析結果も片頭痛患者では脳の状態に健常者とは異なる時間的変動性が存在することを支持している。