自然発生片頭痛発作時における視床大脳ネットワーク活動

Coppola G, et al. Thlalamo-cortical network activity during spontaneous migraine attacks. Neurology 2016;87:2154-2160.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛は発作間欠期において中枢神経系の機能に変化が認められ、一部の機能異常には発作間で一定の周期性を呈することが知られている。 functional MRI (fMRI)によってBOLD (blood oxygenation level-dependent)の変動性を脳各部位で解析し、一貫性のある同期性を呈する部位の間には有意な機能的結合性があると判定できる。 そのような画像解析手法によって、片頭痛患者において下行性疼痛抑制系に関与する部位での機能的結合性の異常が指摘されている。 しかし、これまで自然発生の片頭痛発作時において中枢神経系における機能的結合性がどのように変化しているのかを観察した研究はない。 本研究では、自然発生片頭痛発作時における機能的結合性の解析に加えて、拡散テンソル像を用いて視床と大脳各部位における結合性変化を同時に評価している。

【方法・結果】

ICHD-3betaの前兆のない片頭痛の診断基準を満たした13名の患者 (34.4 + 10.7歳)と、性別・年齢を一致させた健常対照者19名 (31.7 + 4.0歳)を対象とした。 片頭痛患者に関しては、発作開始6時間以内に撮影が開始された。また、過去3ヵ月間は発作予防薬を服用しておらず、急性期治療薬の使用はMRI撮影終了時まで禁止とした。 MRI撮影は7.5分を要し、安静閉眼状態で施行された。 また、拡散テンソル像において視床と大脳各部位での結合性変化は、異方性度 (fractional anisotropy: FA)と平均拡散性 (mean diffusivity: MD)を計測することで行った。 今回登録された片頭痛患者では、発作に先行した予兆を自覚している者はいなかった。また、通常のMRI撮影ではいずれの被検者においても器質的異常を確認されなかった。 安静時における機能的結合性に関しては、発作中の片頭痛患者では遂行制御ネットワーク (executive control network: IC15)と背側および腹側注意システム (dorsal and ventral attention system: IC24)において健常者と比較して変化が確認され、いずれにおいても片頭痛患者では結合関連性低下を示していた。 視床のFA値とMD値に関しては、片頭痛患者と健常者の間で有意差を認めなかった。 また、健常者においては、IC24に関して機能的結合性の程度を示すZスコアが高ければ高いほど両側の視床FA値は低値を示すことが確認された。 一方、片頭痛患者では、IC15のZスコアが高いほど1ヵ月における発作頻度は低い傾向が認められた。

【結論・解釈】

本研究において、安静時での機能的結合性が片頭痛発作時には高次認知機能や注意に関連した部位において、健常人に比較して低下していることが確認された。 視床と大脳との結合性については片頭痛発作中に健常人との差は確認されなかった。 遂行制御ネットワークには、上および中前頭前野皮質・前部帯状回・傍帯状回皮質・腹外側前頭前野皮質が含まれ、ワーキングメモリーや目的指向性をもった計画性、意思決定などの高次認知機能に関与する。 背側注意システムは関連性のある感覚入力を認識して選別などを行う。 腹側注意システムは右半球が主体で、側頭-頭頂結合部や下前頭皮質を含み、行動に関連した感覚刺激の検出に関与する。 片頭痛発作は急性のストレスを患者に与えるため、これらの部位の機能が低下すると推測できる。 また、片頭痛患者では、発作頻度が高いほど遂行制御ネットワークの機能異常が増悪することが示唆された。