可逆性脳血管攣縮症候群における血液脳関門の破綻:病態生理と診断への関与

Lee MJ, et al. Blood-brain barrier breakdown in reversible cerebral vasoconstriction syndrome:
Implications for pathophysiology and diagnosis
Ann Neurol 2017; 81:454-466

【目的】

現在のところ、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の診断は画像検査における血管攣縮所見に基づいている。また脳血管攣縮に加えて、血液脳関門(BBB)破綻はRCVSの重要なメカニズムとされている。本研究の目的は、RCVS患者におけるBBB破綻と、RCVSの病態生理と診断におけるマーカーとしてのその役割について実証することである。

【方法】

2015年4月から2016年7月までSamsung Medical Centerを受診し、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を除外した雷鳴頭痛連続72症例を前向きに対象とした。 国際頭痛分類第3版beta版とMRI画像検査に基づき、RCVS(n=41; RCVS確定診断29例、RCVS疑い12例)、他の二次性雷鳴頭痛(n=7;前哨頭痛2例、頭蓋内動脈解離3例、下垂体卒中1例、出血性海綿状血管腫1例)と原因不明の雷鳴頭痛(n=24;一次性雷鳴頭痛)に分類した。 また、今回の調査では女性CH患者の20.7%に片頭痛の共存が確認された。
BBB破綻は、contrast-enhanced fluid-attenuated inversion recovery(CE-FLAIR) MRIにおける脳脊髄液腔へのガドリニウム造影剤漏出の有無により評価し、円蓋部のくも膜下出血やhyperintense FLAIR vesselとの鑑別は、gradient echoと非造影FLAIRとの比較によって行った。

【結果】

BBBの破綻は、RCVS20例(69%)、RCVS疑い3例(25%)で確認され、その他の二次性雷鳴頭痛では認められなかった。 BBB破綻は、RCVS群のうち可逆性白質脳症(PRES)合併例4例と非合併例19例に存在していた。 RCVS群において、BBB破綻の程度と神経症状の発症は相関しなかった(オッズ比1.48)。 また、BBB破綻部位と脳血管攣縮部位とは必ずしも一致しなかった。BBB破綻を認めた23例中22例(95.7%)では、多発性の造影剤漏出を確認した。 BBB破綻部位は、大脳鎌近傍(n=21;91.3%)、円蓋部(n=17;73.9%)、シルビウス裂(n=6;26.1%)、天幕近傍(n=4;17.4%)、小脳(n=2,;8.7%)に局在し、脳底槽には認めなかった。 血管領域では、前大脳動脈領域(n=19;両側15例、片側4例)が最も多く、次いで中大脳動脈領域(n=18;両側11例、片側7例)、後大脳動脈領域(n=12;両側12例、片側3例)、上小脳動脈領域(n=2,;両側1 例、片側1例)、前下小脳動脈(両側1例)、後下小脳動脈(片側1例)であった。 原因不明の雷鳴頭痛(一次性雷鳴頭痛)のうち3例(12.5%)で、BBB破綻の存在により新たにRCVSと分類された。

【解釈・コメント】

本研究は、RCVS患者においてBBB破綻を臨床的に証明した初めての報告であり、またPRESを合併していないRCVS症例でもBBB破綻を確認できた初めての臨床報告でもある。この知見は今後、RCVSの病態生理および臨床スペクトルの理解を深めるかもしれない。
RCVSにおけるBBB破綻は、脳血管攣縮による虚血もしくは低酸素障害によるもの、またはRCVSの誘因である温度変化(入浴やシャワー)や血管作動性薬剤への暴露によっても生じると考えられるが、このBBB破綻と脳血管攣縮の病態生理学的な因果関係についての証明にはさらなる研究が必要である。
また、CE-FLAIRは日常の撮像条件に取り入れやすく、実臨床において病態生理学的根拠に基づいたRCVS診断として有用である可能性があり、早期確定診断の一助になると考えられた。

文責:松森保彦(仙台頭痛脳神経クリニック)