前兆のある片頭痛の発作中における脳幹血流と血液脳関門透過性の変化

Hougaard A, et al. Increased brainstem perfusion, but no blood-brain barrier disruption, during attacks of migraine with aura. Brain 2017. doi:10.1093/brain/awx089

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

前兆のある片頭痛 (MA)では、前兆が起こってから頭痛発作が生じる。 その連続性に関しては、前兆時に起こる皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)が血液脳関門 (blood-brain barrier: BBB)破綻を引き起こし、血管透過性が上昇するために、炎症性物質が脳血管周囲の神経終末に作用して痛みを引き起こすのではないかという仮説がある (Harper AE, et al. Lancet 1977;1:1034-1036)。 動物実験では、CSDに随伴するmatrix metalloproteinase 9 (MMP9)の活性化によってBBB破綻が生じるという報告もある。 本研究では、MA患者の発作時におけるBBB透過性と脳血流変化をMRIで検討している。

【方法・結果】

18~65歳のMA患者を対象にコペンハーゲンを中心に施行された研究で、参加者はMAの発作を経験した時点で研究グループに電話連絡をとり、直ちにタクシーで来院するように指示された。到着後にMRI撮影を受けて、脳組織の灌流状態とダイナミック造影MRIによるBBB透過性の評価を施行された。さらに、片頭痛の間欠期にベースライン測定のための撮像も行われた。58名の患者をリクルートしたが、実際には19名 (女性11名・男性8名)の患者で検査が施行された。平均年齢は35.5歳で、MA発作頻度の中央値は12回/年、罹病期間の中央値は17.1年であった。発作開始からダイナミック造影MRI施行開始までの平均時間は7.6時間 (1-22時間)であった。 片頭痛発作中と発作のない日に得られたデータを比較したところBBB透過性に変化は認められなかった。 また、発作側と非発作側の間にも、BBB透過性に差は認められなかった。さらに、閃輝暗点の辺縁が明白であった症例と、そうでなかった症例でデータを比較しても、BBB透過性に差は認められなかった。 脳血流変化に関しては、発作のあった日には両側鳥距皮質の血流は非発作日と比較して増加しており、特に頭痛側で顕著であり (32.2 ml/100 g/分 vs. 27.6 ml/100 g/分)、頭痛側の後部大脳白質でも血流増加が確認された。 さらに両側下部脳幹でも血流増加が認められたが、頭痛側と対側でより程度が強かった。

【結論・コメント】

今回の結果からは、片頭痛発作時にBBB破綻が生じている証拠は得られなかった。 家族性片麻痺性片頭痛1型においては、意識障害などが認められるような激しい発作の際にBBB破綻を示唆する所見が過去に得られているが、通常のMA発作ではBBB破綻を来すほど強い脳内の変化は起きていないのではないかと推測される。 一方、脳血流が頭痛発作時に上昇していたことは、1990年にOlesenら (Ann Neurol 1990;28:791-798)がPETで確認した所見と矛盾しない。 下部脳幹の血流上昇は、前兆の有無に関わらず片頭痛で観察されることは以前の研究でも報告されている。 これが、三叉神経脊髄路核の活性化を反映しているのか、あるいは頭痛に二次的に生じている下行性疼痛調節系の活性化を示しているのかを判別することは困難である。 また、寒冷疼痛を負荷した研究でも、脳幹血流上昇は報告されているため片頭痛発作に特異的な現象ではないようである (Petrovic P, et al. Neuroimage 2004;22:995-1005)。