慢性片頭痛患者における視覚刺激後の三叉神経脊髄路核の活性化

Schulte LH, et al. Visual stimulation leads to activation of the nociceptive trigeminal nucleus in chronic migraine. Neurology DOI 10.1212/WNL.0000000000005622

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

光過敏は片頭痛発作時の重要な随伴症状であり、発作間欠期においても一部の患者では観察される。 光刺激が頭痛を引き起こす機序は動物実験で検討されており、三叉神経脊髄路核レベルでの活性化が実証されている。 さらにその活性化機序には副交感神経活動や視床下部活性化の関与が報告されている。 本研究では、慢性片頭痛 (CM)患者、反復性片頭痛 (EM)患者、健常対照者 (HC)の3群において光過敏による三叉神経侵害受容経路の活性化をfunctional MRI (fMRI)を用いて比較することを目的とした。

【方法・結果】

22名のCM患者、20名のEM患者、21名のHCを登録したが、除外基準のために17名のCM患者 (平均年齢39.9歳)、18名のEM患者 (平均年齢32.2歳)、19名のHC (平均年齢37.4歳)のみが解析対象となった。 CM患者には、研究直前の4ヵ月間で変更がなければ片頭痛予防薬の使用は許可された。侵害性刺激としてはアンモニアガスの吸引を行った。 また、バラの香りを嗅覚刺激、空気吸入を対照条件、回旋チェッカーボードを視覚刺激としてそれぞれ被験者に負荷した。各々の刺激に対する被験者が感じた強さ (intensity)は0~100段階で評価した。 また、不快さ (unpleasantness)は0を中間として、-50を最も心地よい刺激、+50を最も不快な刺激として評価した。 さらに3T MRIを用いて頭部画像撮影を行い、SPM12とMATLAB version R2014bを用いて画像のプロセシングと解析を施行した。 回旋チェッカーボードによる視覚刺激の強さの感知は3群間で有意差を認めなかったが、不快さに関してはCMとEM患者でHCに比較して有意に不快に感じていた。 また、CM患者ではEM患者よりも有意に強く不快に感じていた。 fMRI所見では、視覚刺激後にCM患者ではHCに比較して脳幹の三叉神経脊髄路核レベルに存在する2つの領域において有意な活性化が観察された (ボリューム補正後はより尾側の部位でのみ有意差を確認)。 さらに、CM患者ではHCに比較して上丘においても有意に強い活性化を認めた。 また、侵害性刺激と視覚刺激後の活性化を比較したところ、CM患者では三叉神経脊髄路核に相当する領域の同一部位における活性化が共通して確認された。 また、スキャン中に頭痛発作を認めたEMおよびCM患者と認めなかったEMおよびCM患者の比較を行ったところ、前者においてより有意な三叉神経脊髄路核での活性化が確認された。

【結論・コメント】

本研究の重要な所見は、CM患者では視覚プロセシングを行う際に三叉神経脊髄路で健常者に比較して有意に強い活性化が生じることを明らかにした点である。 また、この所見はCM患者において視覚系の感作が生じていることを支持している。 強い光を感知すると眼痛や頭痛が生じる現象は健常人でも観察され、一種の防御機構と考えられる。 本研究の結果は、片頭痛患者 (特にCM患者)ではこの機構が活性化されやすくなっていることを示唆している。 背景にあるメカニズムとしては、眼内の三叉神経が異常に活性化されていることに加え、大脳や視床を介するトップダウン型の調節系の異常の関与も考えられる。