クライオ電子顕微鏡によるCGRP受容体構造の解明

Liang Y-L, et al. Cryo-EM structure of the active, Gs-protein complexed, human CGRP receptor. Nature 2018;561:492-499.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

CGRP受容体はcalcitonin receptor-like receptor (CLR)とRAMP1の複合体より形成され、Gタンパク質と共役している。 最近になり、Volta位相板を用いたクライオ電子顕微鏡観察によって2~3 Åの解像度で分子構造が解明されるようになった。 その結果、アミノ酸1つ1つの挙動が把握されるようになった。 本研究では、Trichoplasia ni昆虫細胞にヒトCLRとRAMP1を発現させて複合体を形成し、リガンドであるCGRP (37個のアミノ酸からなるペプチド)を作用させ、クライオ電子顕微鏡により3.3 Åの解像度で詳細に構造解析を行った。 また、人為的に変異を挿入した際のGタンパク質を介したシグナル伝達の効率についても検討している。

本研究で得られた重要な所見を以下に列挙する。

  1. CGRPのN末側 (アミノ酸1~23)はCLRのコア部分に、C末側 (アミノ酸27~37)はCLRの細胞外ドメイン (extracellular domain: ECD)に結合する。一方、CGRPのRAMP1に対する直接的な結合はC末端のみに限定的されている。RAMP1が存在しない場合は、CGRPのC末端とCLRのECDとの間の水素結合が不安定化する。
  2. CGRPの表面積の61.5%が受容体複合体との結合に関与している。
  3. CGRPはN末端にループ構造を形成し、さらにバリン23の位置まで両親媒性のαヘリックス構造を取り、CLR内部に埋もれた形で結合している。CGRPとCLRの間には、広範なvan der Waals力による相互作用が存在する。また、このαヘリックス内のバリン8、ロイシン12、ロイシン16によって形成される疎水性部分が、CGRPのシグナル伝達に重要である。
  4. CGRPのスレオニン6とCLRのヒスチジン295の間の水素結合は、両者の結合性に重要な役割を果たしている。
  5. CLRのドメインの中で、CGRPとの結合に重要なアミノ酸はTM (transmembrane)3, 5と細胞外ループ (extracellular loop: ECL)2に複数存在する。
  6. CGRPのスレオニン4はCLRとの直接な結合には関与しないが、ループ構造の折り畳み機構に関与することで、受容体複合体との結合性に重要な役割を果たしている。
  7. CLRのECL2のコンフォメーションは、CGRPの受容体結合後のシグナル伝達において極めて重要である。特に、アルギニン274とトリプトファン283の存在がECL2の活性型構造の維持に重要である。また、RAMP1はアルギニン274とアスパルギン酸280の間に生じる水素結合を安定化させている。
  8. 受容体複合体のECDは、受容体複合体のコア部分に対してほぼ一定のオリエンテーションを取っていることから、CLRとRAMP1は比較的強固な結合性を有していることが示唆される。
  9. CLRとRAMP1の接合面 (インターフェイス)形成には、van der Waals力による相互作用や水素結合が重要な役割を果たしている。RAPM1の表面積の約23%はこの接合面に埋没しており、その膜貫通領域はCLRの膜貫通領域TM3, 4, 5と結合している。
  10. RAMP1のアスパラギン酸113はCLRのECL2のチロシン278およびTM5のスレオニン288とヒスチジン289とそれぞれと水素結合している。さらに、これらのアミノ酸に人為的に変異を入れると、CGRPの受容体機能が低下する。
  11. RAMP1はCLRのC末側のECDの可動性を調節している。

本研究で得られた非常に詳細なCLR、RAMP1, CGRPの相互関係やシグナル伝達への影響に関連した知見は、今後の創薬にも重要なヒントを与えるものと考えられる。