㈵−12
どのような一次性頭痛を治療すべきか

 

推奨
一次性頭痛は患者の苦痛があれば重症度にかかわらず治療の対象となる.頭痛が日常生活に支障をきたしていると判断した場合には積極的に治療すべきである
推奨のグレード
A  
 

 

背景・目的

日本の片頭痛の有病率は 8.4 %で,このうち 74 %が日常生活に支障をきたしている.また慢性緊張型頭痛の有病率は 1.6 %で , このうち 40.5 %が日常生活に支障をきたしている.医療機関への受診率は片頭痛で 30 %,慢性緊張型頭痛で 73 %である 1)2) .しかし受診した事があっても必ずしも適切な治療を受けていない.二次性頭痛の除外が強調され,一次性頭痛の原因,診断の説明および治療が不十分とする患者が多く,日本における頭痛診療のレベルが患者のニーズを満たしていないと報告されている 3 ) .治療すべき一次性頭痛について検討した.


解説・エビデンス

日本における片頭痛の有病率は 8.4 %で,日常生活におよぼす影響は,いつも寝込む 4% ,時々寝込む 30% ,寝込まないが支障あり 40% と,全体の 74% は日常生活に支障をきたしている 4) .疑診例も含む緊張型頭痛の有病率は 22.3 %(反復性緊張型頭痛 20.6% ,慢性緊張型頭痛 1.6% )で,いつも寝込む 0.5% ,時々寝込む 4.7% ,寝込まないが支障あり 24% と, 29.2% が日常生活に支障をきたしており,片頭痛に比べ影響が少ない傾向がみられた.しかし緊張型頭痛のうち慢性緊張型頭痛に関しては 40.5% が日常生活に支障をきたしていた 1 )
5)6)7 )頭痛の日常生活支障度を判定する実用的なツールには MIDAS ( Migraine Disability Assessment Scale )質問表 および HIT (Headache Impact Test) があり 8) ,これらは支障度を評価し , 治療有効性をモニターするためにも使用する. MIDAS にて grade ㈽( 11 スコア)以上,または HIT にて 50 スコア以上の場合に生活支障度は中等度以上と判断され,積極的な治療の対象となる. 日本の片頭痛患者の MIDAS を評価した報告は 2 件あり, 1760 例の片頭痛を持つ看護師,薬剤師を対象とした五十嵐 2) の報告によれば, MIDAS 質問表を用いた日常生活支障度の割合は,グレード ㈵(支障まったくなし,ほとんどなし) 63.3% ,グレード ㈼(軽度支障) 14.0%, グレード ㈽ (中等度支障) 8.2%, グレード ㈿ (高度支障) 5.7% で,フランスにおける疫学調査とほぼ同等であった 9) . 101 例の神経内科外来に通院する片頭痛患者を対象とした飯ヶ谷の報告によれば MIDAS グレード I または II 46.5% ,グレード III 22.2%, グレード IV 31.3% であった. 7)
一次性頭痛の治療目的は、頭痛頻度、頭痛強度,持続時間を減らすこと,頭痛により障害される時間を短くし, QOL を改良すること,薬物誤用による頭痛の増悪を回避することである.片頭痛の急性期治療は障害のレベルに準じた層別化治療( stratified care ) が推奨される10) .層別化治療とは支障度の レベルに応じて治療するもので,支障度の低い場合は鎮痛薬,支障度の高い患者には初回治療からトリプタン製剤の投与が適当である.

 

参考文献のリスト

1) 五十嵐 久佳,坂井 文彦.緊張型頭痛の疫学調査.日本頭痛学会誌. 1997
  25(1):17-19
2) 五十嵐 久佳.看護婦・薬剤師における慢性頭痛実態調査.片頭痛の具体的な
  医療手順に関する調査研究 平成 15 年度研究報告書平成 16 年 3 月: 66-74
3) 根来 清,多田由紀子.頭痛外来の現状とその役割. 片頭痛の具体的な医療手
  順に関する調査研究 平成 15 年度研究報告書平成 16 年 3 月: 34 -39
4) Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan : a nationwide survey.
  Cephalalgia. 1997 Feb;17(1):15-22.
5) Lipton RB, Stewart WF, Stone AM, Lainez MJ, Sawyer JP; Disability in Strategies
  of Care Study group. Stratified care vs step care strategies for migraine: The
  Disability in Strategies of Care (DISC) Study: A randomized study .JAMA
  2000;284:2599-2605
6) Stewart WF, Lipton RB, Kolodner K, Liberman J, Sawyer J. Reliability of the
  migraine disability assessment score in a population-based sample of headache
  sufferers. Cephalalgia. 1999 Mar;19(2):107-14; discussion 74.
7) Stewart WF, Iigaya M, Sakai F, Kolodner KB, Lipton RB, Stewart WF. Reliability
  and validity of the Japanese Migraine Disability Assessment (MIDAS)
  Questionnaire. Headache.  2003 Apr;43(4):343-52.
8) The Headache Impact Test(HIT).www.amihealthy.com
9) Henry P, Auray JP, Gaudin AF, Dartigues JF, Duru G, Lanteri-Minet M, Lucas C,
  Pradalier A, Chazot G, El Hasnaoui A.
Prevalence and clinical characteristics of
  migraine in France. Neurology. 2002 Jul 23;59(2):232-7.
10) Lipton RB, Kolodner KB, Sawyer J, Lee C, Liberman JN. Validity of the Migraine
  Disability Assessment (MIDAS) score in comparison to a diary-based measure in
   a population sample of migraine sufferers Pain. 2000 Oct;88(1):41-52

 

検索式・参考にした
二次資料

.・ Pub Med 検索( 2004/11/30 )
chronic headache 11079
& strategy OR stratified 97
 
chronic headache 11079
& disability 272
& strategy OR stratified care 19
 
chronic headache
& prevalence 1317
& disability 76
 
Migraine Disability Assessment Scale 15

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