㈵−15 |
漢方薬は有効か |
1) 前田浩治 , 宮城 敦 , 菅原武仁 . 慢性頭痛に対する呉茱萸湯の効果 . |
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エビデンスレベル |
㈼ b |
目的 |
慢性習慣性頭痛(血管性頭痛・筋緊張性頭痛・混合性頭痛)に対する呉茱萸湯の効果および有用性を検討すること. |
研究デザイン |
症例集積研究 |
研究施設 |
東十条病院脳神経外科外来 |
対象患者 |
同外来に頭痛を主訴に来院した患者 180 例中, 2 週間以上経過観察できた症例 147 例(男性 46 例,女性 101 例)を対象とした. |
介入 |
対象患者に呉茱萸湯を処方し, 2週後・4週後で自覚症状および他覚症状の改善について評価する. |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
頭痛の部位・性状・強度・頻度 |
結果 |
頭痛を主訴とする対象 147 例中89 % の症例で自覚および他覚所見の改善がみられた.効果発現時期は 2 週間以内が多く,頭痛の種類では血管性頭痛で痛みの強いものに高い改善がみられた.性別・年齢・頭痛の種類・罹患期間・漢方所見においては改善度に有意差は認められなかった. |
結論 |
呉茱萸湯は頭痛の種類・期間・漢方所見等の制約に囚われることなく効果を期待できる. |
コメント |
症例集積研究であり,エビデンスレベルは低い.ただし呉茱萸湯の高い有用性が示されている. |
2) 赤嶺真理子 . 緊張性頭痛に対する呉茱萸湯の有用性 . |
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エビデンスレベル |
㈽ |
目的 |
緊張性頭痛に対する呉茱萸湯の効果 |
研究デザイン |
症例集積研究 |
対象患者 |
一施設の心療内科外来通院中の緊張性頭痛患者 30 例 ( 男性 8 例,女性 22 例 ). 平均年齢 41.8 歳 |
介入 |
呉茱萸湯を投与.期間は不定. |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
投与前後で症状を評価し,頭痛に対する有効性,うつ状態および習慣性の有無に分けた有効性を評価した. |
結果 |
有効性では,有効 (症状の消失または軽快)23例(76.7%),無効3例(10%),中止による評価不能4例(13.3%)であった.うつ状態の有無では,うつ状態ありの13例中12例(92.3%),うつ状態なしの13例中11例(84.6%)が有効であった.習慣性の有無では,習慣性頭痛21例中19例(90.5%),非習慣性頭痛5例中4例(80%)が有効であった. |
コメント |
症例集積研究であり,投与期間も不定で,エビデンスレベルは低いが,呉茱萸湯の高い有用性を示している. |
3) 関 久友 . 慢性頭痛に対する呉茱萸湯の効果.封筒法による桂枝人参湯との |
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エビデンスレベル |
㈵ b |
目的 |
筋収縮性頭痛に対する呉茱萸湯と桂枝人参湯の効果 |
研究デザイン |
ランダム化比較臨床試験 |
対象患者 |
一施設の神経内科外来を受診した慢性頭痛患者 88 例 ( 男性 33 例,女性 55 例 ). 平均年齢 55.2 歳。内訳は,筋収縮性頭痛 81 例,混合性頭痛 7 例. |
介入 |
対象処方は呉茱萸湯エキスまたは桂枝人参湯エキス.封筒法により呉茱萸湯群 44 例,桂枝人参湯群 44 例に分けた.投与期間は4週間. |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
投与前後で症状を評価し自覚症状改善度,安全性,有用度を判定した. |
結果 |
自覚症状改善度では,軽度改善以上は呉茱萸湯群 35例(79.5%),桂枝人参湯群27例(61.4%)で,呉茱萸湯群で多いが有意差はなかった.副作用は呉茱萸湯群の3例でγ-GTP,GOT,GPTの軽度上昇または皮疹を認めたが,臨床上の問題はなかった.有用度では,やや有用以上は呉茱萸湯群35例(79.5%),桂枝人参湯群27例(61.4%)で,呉茱萸湯群で多いが有意差はなかった. |
コメント |
盲検化されておらず,漢方薬同士のランダム化比較試験である.このため漢方薬の有用性を示すエビデンスにはなりがたい.しかし両処方とも高い改善度を示している. |
4) 松本博之 . 慢性頭痛に対する桂枝人参湯と釣藤散の有用性に関する研究 . |
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エビデンスレベル |
㈵ b |
目的 |
頭痛に対する桂枝人参湯と釣藤散の効果 |
研究デザイン |
非ランダム化クロスオーバー比較試験 |
対象患者 |
多施設における慢性頭痛患者 33 例 ( 男性 5 例,女性 28 例 ). 年齢 26 〜 77 歳.平均年齢 53.2 歳。うちわけは,診断名は片頭痛 4 例,筋収縮性頭痛 ( 緊張型頭痛 )11 例,混合性頭痛 17 例,分類不明 1 例. |
介入 |
最初に桂枝人参湯エキスまたは釣藤散エキスを 4週間投与し,wash outせずに他剤へcross overし4週間投与.症例によってはcross over せずに同一薬物を8週間投与 |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
1 薬剤について投与前, 4 週後 (cross over しなかった症例は 8 週後 ) に,臨床症状,安全度,有用度,証 ( 実虚・熱寒・燥湿 ) を評価した. |
結果 |
Cross over群では,桂枝人参湯→釣藤散群8例中,有用度がやや有用以上は桂枝人参湯6例(75%),釣藤散6例(75%),釣藤散→桂枝人参湯群10例中,やや有用以上は桂枝人参湯5例(50%),釣藤散2例(20%)であった.先に一方の薬剤を4週間投与したものおよびcross overしないでその薬剤を8週間継続したものを合わせた単独投与群では,桂枝人参湯単独投与群18例中,有用度がやや有用以上は12例(66.7%),釣藤散単独投与群15例中では7例(46.7%)であった.安全度は全例安全であった. |
結論 |
慢性頭痛に対して桂枝人参湯,釣藤散ともに鎮痛補助薬としての薬理効果が認められた. |
コメント |
WASH OUT期間のないクロスオーバー試験であり,しかも非ランダム化試験のためエビデンスレベルは低い.評価方法もすっきりしていない.漢方薬同士の比較であるため漢方薬の有用性を評価するには適さない. |
5) 木村 格 . 脳血管障害患者の慢性頭痛に対するツムラ釣藤散の臨床効果 . |
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エビデンスレベル |
㈼ b |
目的 |
脳血管障害患者の慢性頭痛に対する釣藤散の効果 |
研究デザイン |
症例集積研究 |
対象患者 |
一施設の脳血管障害慢性期の患者で,慢性の頭痛と頭重感を有する 60 例 ( 男性 28 例,女性 32 例 ). 年齢 47 〜 86 歳.平均年齢 61.8 歳。基礎疾患は,脳梗塞 ( 脳血栓症,脳寒栓症 ) 後遺症 32 例,多発性脳梗塞 8 例,脳出血後遺症 20 例. |
介入 |
投与期間は不定 (6 週間から 20 週間 ) |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
投与前,投与 1,2,4,6,8,16 週後に,頭痛の頻度,頭痛の程度,鎮痛剤・精神安定剤の使用量の変化の 3 項目について評価し,頭痛・頭重感に対する効果を判定した. |
結果 |
効果判定では,著明改善 11.7%,改善48.3%,やや改善18.3%で,やや改善以上は78.3%であった.このうち,効果発現までの時間は4週間以内10.6%,4週間から6週間70.2%,6週間以降19.1%であった.改善なしは21.7%であった.1例の嘔気の副作用がみられた. |
コメント |
症例集積研究でありエビデンスレベルは低いが,釣藤散の高い頭痛改善度が示されている. |
6) 高田 理 . 慢性緊張型頭痛に対する釣藤散の有効性について . |
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エビデンスレベル |
㈼ b |
目的 |
「慢性緊張型頭痛」に対する釣藤散の効果をみること. |
研究デザイン |
症例集積研究 |
研究施設 |
上平村 西赤尾診療所 |
対象患者 |
頭痛を主訴に同診療所を受診し,慢性緊張型頭痛と診断された患者 24 例のうち,薬物コンプライアンスの低い 4 例を除く 20 例(男性 3 例,女性 17 例,平均年齢 74.4 歳)を対象とした. |
介入 |
対象患者に対し, 8週間釣藤散を投与し,4週後と8週後での自覚症状の改善をみる. |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
投与開始前,投与 4 週後,投与 8 週後に頭痛・頭重感の程度および随伴症状 6 項目(肩凝り・不安焦燥感・ほてり感・耳鳴り・めまい・不眠)について, 6 段階主観スコア評価( grade 0: 無 , grade 1: 微弱 , grade 2: 弱 , grade 3: 中等度 , grade 4: 強 , grade 5: 極強) を行った.加えて投与開始前,投与 8 週後に改訂・長谷川式スケール( HDS-R )を実施した. |
結果 |
4週後の改善率60%,8週後の改善率70%,HDS-Rスコアは,頭痛・頭重感の「著効」および「有効」14例の投与開始前評価では,平均26.3(21〜29)ポイントと高く,投与8週後の評価でも平均28.5ポイントと2.2ポイント上昇していた.それに対して「無効」6例の投与開始前評価では平均21.5ポイントであり,投与8週後の評価でも平均21ポイントと改善を認めなかった. |
結論 |
釣藤散投与による「著効」例および「有効」例を合わせた最終改善率は 70% であった.釣藤散投与4週後の時点で「有効」と「無効」との推測が可能.HDS-Rが釣藤散の効果判定に有用と思われた. |
コメント |
症例集積研究でありエビデンスレベルは低い.対象の平均年齢が 74.4歳と高齢であり,年齢的な偏りが問題.また豪雪山間地在住であることなどから高血圧の有無が背景として重要であると思われるが,論じられていない,等より本研究の結果を一般化して論ずることはできない. |
エビデンスレベル |
㈼ b |
目的 |
緊張性頭痛に対する葛根湯の効果 |
研究デザイン |
症例集積研究 |
研究施設 |
香川県立中央病院神経内科外来 |
対象患者 |
一施設の神経内科外来通院中の慢性緊張性頭痛患者で,抗不安薬の効果が不十分な患者 23 例 ( 男性 5 例,女性 18 例 ) を無作為に選択した.年齢は 24 〜 74 歳 , 平均 54.3 歳 |
介入 |
葛根湯エキス.投与期間は不定.抗不安薬は用量を変えず継続投与し,筋弛緩薬の投与は 1 例で新たな使用はしなかった. |
主要評価項目とそれに用いた 統計学的手法 |
投与前と治療効果が出現した時点,あるいは効果がなく中止した時点で, Goldberg による一般健康調査質問票 ( GHQ: general health questionnaire, 日本語版 ) を用いて臨床症状を評価した. |
結果 |
有用性では,中等度有用 3例(13.0%),軽度有用12例(52.2%),不変8例(34.8%)で悪化例はなかった.各症状の改善率(1段階以上の改善)は頭痛(50.0%),頭重感(60.9%),肩こり(60.9%),首のこり(60.9%),めまい感(47.3%),頸部圧痛(63.2%)であった.副作用は胃部不快感1例,下痢1例.効果判定時のGHQ得点は投与前に比べ有意に低下した(p<0.001).GHQの要素スケールの解析では,身体症状と不安・不眠で得点の有意な改善を認めたが(ともにp<0.05),社会的活動障害とうつ状態は有意な改善はなかった. |
結論 |
葛根湯の抗不安薬との併用は慢性の難治性緊張型頭痛に対して試みる価値がある. |
コメント |
症例集積研究であり投与期間も不定で,エビデンスレベルは低い. |
エビデンスレベル |
㈵ b |
文献タイトル (日本語) |
慢性頭痛に対する呉茱萸湯の効果:レスポンダー限定多施設無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験 |
目的 |
• 呉茱萸湯の慢性頭痛改善薬としての有用性を検討する |
研究デザイン |
レスポンダー限定多施設無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験( Randomized, double-blind, placebo-controlled study ) |
研究施設 |
北里研究所東洋医学総合研究所・北里大学内科学㈽・北里大学大学院医療系研究科・新宿海上ビル診療所 |
研究期間 |
2004 年 5 月から 2005 年 2 月( May 2004 to February 2005. ) |
対象患者 |
月に 1 回以上の発作をおこしている慢性頭痛患者 42 人. |
介入 |
1 st stage, 2 nd stage の二段階法で実施.前者は全員に 1 ヶ月間呉茱萸湯を服用してもらい,レスポンダーを抽出する段階.レスポンダーの判定基準は頭痛と随伴症状のアンケートを点数化することで決定した.後者は無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の段階.偽薬群と実薬群に分け, 3 ヶ月間服用してもらった.前者と後者の間に 1 ヶ月間の休薬期間を設けた. |
主要評価項目とそれに用いた統計学的手法 |
主要評価項目は頭痛日記に記載された 4 週間当たり頭痛日数の服用前後での変化.副次的評価項目は頭痛発作薬 ( トリプタン製剤・鎮痛剤 ) 服用回数,自律神経機能,脳血流,腓腹筋血流,僧帽筋硬度,指趾表面温,指趾皮膚血流,深部温,血小板サブスタンス P ,血中セロトニン濃度.さらに随伴症状として冷え,月経痛,肩こりの改善度を評価した.統計は対応のある t 検定を用いた. |
結果 |
頭痛日数は偽薬群で 9.5 回から 9.1 回へ ( P =0.73) ,実薬群で 12.9 回から 10.3 回 ( P =0.01) へ減少し,実薬群でのみ有意差を認めた.発作薬服用回数は偽薬群で 5.8 回から 5.5 回へ ( P =0.89) ,実薬群で 12.5 回から 8.7 回 ( P =0.01) へ減少し,やはり実薬群でのみ有意差を認めた.血中セロトニン濃度は偽薬群で 123ng/ml から 123ng/ml と変化を認めなかった ( P =0.97) が,実薬群で 113ng/ml から 123ng/ml( P =0.05) へ変化し,有意差は認めなかったものの上昇傾向を示した.その他の項目については両群間に差を認めなかった. |
結論 |
レスポンダーに投与された呉茱萸湯は慢性頭痛の発作回数を減少させ,さらにその程度も改善する効果を有していると考えられる.この機序に血中セロトニン濃度の上昇が関与している可能性がある. |
コメント |
漢方薬の特性を生かしたデザインで研究が施行され,有用性が示されている.レスポンダーの選定基準,ノンレスポンダーに対する 2 ND STAGEの要否等,問題もある. |
作成者 |
花輪壽彦 |