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β 遮断薬(プロプラノロール)は片頭痛の予防に有効か

 

推奨
β 遮断薬(プロプラノロール)は片頭痛発作予防効果があり, 30 mg / 日程度から開始して, 30 〜 60 mg/ 日の用量が QOL を阻害する片頭痛発作がある患者の第一選択薬のひとつとして勧められる . β 遮断薬は高血圧や冠動脈疾患合併例にも使用でき,かつこれらの合併症もともに治療できるという利点も有している
推奨のグレード
 A

 

背景・目的

β 遮断薬は主に高血圧,冠動脈疾患,頻拍性不整脈治療薬として使用されるが,片頭痛予防薬としても古くから使用されてきた.
その作用機序,薬理学的根拠は未だ明確でない点が多いが,プロプラノロールの他,メトプロロール,アテノロール,ナドロールなどが使用されている.現在,本邦では片頭痛の保険適用は承認されていないが,心不全や喘息,抑うつ状態など β 遮断薬が禁忌となる並存症がない限り積極的に使用できる予防薬と考えられている.

 

解説・エビデンス

代表的な β遮断薬プロプラノロールは46以上の試験が行われており,プラセボと比較した臨床試験において片頭痛予防薬としての有用性が示され,また,メタアナリシスも行われている.Holroydらの53試験(2,403人)を対象としたメタアナリシス 1) では,プロプラノロールの典型的な投与量は160mg/日で,二重盲検試験でのプロプラノロール有効率は平均43.7%,プラセボの14.3%より有意に高かった(p<0.001).頭痛日記を用いた評価ではプロプラノロールは片頭痛発作を44%減少させた.自覚的改善度や臨床的な有効性評価ではプロプラノロールにより65%が改善させた.プラセボではいずれの評価法でも約14%の改善にとどまった. 研究により投与量が異なっているが,投与量と片頭痛予防効果の用量-反応関係は明確ではなかった. プロプラノロールの認容性は良好である.
これらの結果よりプロプラノロールの片頭痛予防薬としての効果は確実といえる.
メトプロロールは 4件以上のプラセボ群と比較した臨床試験 2)3) で有用性が示されている.エビデンスはやや劣るものの,プロプラノロールとほぼ同等の予防効果があると考えられる.
チモロールは3件の臨床試験 4) があり,有用性が示されているが本邦では点眼薬のみで,内服薬は使用できない.
アテノロールは3件のプラセボとの比較試験5) にて有効性が示されている.ナドロールは2件以上のプラセボとの比較試験で有用性が示されている.また,ナドロールとプロプラノロールの比較試験(RCT)では 6) ,片頭痛患者48例にナドロール80mg,160mg,プロプラノロール160mgを12週間服用させると,ナドロール80mg群では頭痛回数が6.13回/月から2.74回/月に減少,ナドロール160mg群では5.56回/月から2.93回/月,プロプラノロール群では7.42回/月から4.54回/月と全ての群で改善がみられたが,ナドロール80mg群が最も高い改善効果を示した.
以上よりβ遮断薬はプロプラノロール,メトプロロール,チモロール,アテノロール,ナドロールなどにおいて片頭痛予防効果が確実で,副作用も重篤なものは少なく,片頭痛予防治療薬として積極的に使用が推奨される薬剤である.
β遮断薬のうち内因性交感神経刺激作用(intrinsic sympathomimetic activity : ISA)を有するアセブトロール 7) , ピンドロール, アルプレノロール 8) , オキシプレノロール 9) などを用いた臨床試験が施行されているが,片頭痛予防効果はなかった.ISAを有するβ遮断薬には片頭痛予防効果が期待できないと考えられるが,その理由は不明である.
米国頭痛コンソーシアムのガイドラインでは, β遮断薬プロプラノロールは十分なエビデンスがあり,120-240mg /日用量での使用が推奨されている.本邦の日本神経学会頭痛治療ガイドライン(2002年)では,プロプラノロールのエビデンスから有用性を評価しているが,本邦において片頭痛の保険適用が承認されていないため推奨(お勧め度)は評価なしとした.
本邦におけるプロプラノロールの用量に関するエビデンスは乏しいが,本邦での使用経験に基づき海外のエビデンスよりは低用量の 20〜60 mg/日を推奨する.
また,これまでに刊行されたガイドラインでは,妊婦に予防療法を行わねばならない場合にもプロプラノロールを始めとするβ遮断薬が比較的安全として記載している.

 

参考文献のリスト

1)Holroyd,K.A et al. Propranolol in the management of recurrent migraine:
  a meta-analytic review. Headache. 1991; 31: 333-40
2) Kangasniemi P, Andersen AR , Andersson PG et al. Classic migraine: effective
  prophylaxis with metoprolol. Cephalalgia. 1987; 7:231-238
3) Steiner TJ, Joseph R, Hedman C et al. Metoprolol in the prophylaxis of migraine:
  parallel-groups comparison with placebo and dose-ranging follow-up. Headache.
  1988; 28:15-23
4) Stellar S, Ahrens SP, Meibohm AR et al. Migraine prevention with timolol.
  A double-blind crossover study. JAMA. 1984; 252:2576-2580
5) Johannsson V, Nilsson LR, Widelius T et al. Atenolol in migraine prophylaxis
  a double-blind cross-over multicentre study. Headache. 1987; 27:372-374
6) Ryan R.E., Sr. Comparative study of nadolol and propranolol in prophylactic
  treatment of migraine. Am. Heart J. 1984; 108: 1156-1159.
7)  Nanda RN, et al. A double blind trial of acebutolol for migraine prophylaxis.
  Headache. 1978; 18: 20 -22
8) Ekbom K. Alprenolol for migraine prophylaxis. Headache. 1975; 15: 129-32
9) Ekbom K, et al. Oxprenolol in the treatment of migraine. Acta Neurol Scand.
  1977; 56: 181-4

検索式・参考にした
二次資料

{migraine } OR {vascular headache} OR {hemicrania} 18849
& propranolol 402
& metoprolol 75
& timolol 26
& pindolol 17
& nadolol 27
& atenolol 25
& acebutolol 2
& alprenolol 5
& acebutolol 2
& bisoprolol 5
& practolol 4
& labetalol 2
& carteolol 1
& oxprenolol 6
& prindolol 9
→  重複,明らかに対象外の文献を除外して 436
抄録および本文を吟味し, 9 件を採択.
検索 DB :  PubMed (04/11/19, Reference Manager)