CQ1
群発頭痛の急性期治療に酸素は有効か

 

推奨
酸素(>90%酸素)の15分間の吸入(フェイスマスク側管より7L/分)は急性期群発頭痛の発作頓挫に有効である.
推奨のグレード
  A

背景・目的

酸素吸入は群発頭痛の急性期治療薬として,1956年にHortonが提唱してから広く使用され,多くの研究で急性期治療薬として評価され1),欧州神経学会2),米国神経学会3)・米国頭痛学会4)および本邦の慢性頭痛診療のガイドライン20135)でもスマトリプタン皮下注射とともにグレードAに推奨されている. わが国では2007年よりスマトリプタンのキット製剤が認可され,自己注射が可能となり,多くの群発頭痛患者が恩恵を受けた.2018年度の診療報酬改訂で群発頭痛患者における在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)の保険適用が認められるようになり,スマトリプタンに対する使用禁忌,副作用などで十分な加療が困難であった群発頭痛患者にも福音がもたらされた. 保険適用にあわせて,適正使用のためにガイドラインを作成し,群発頭痛の酸素療法に対するエビデンスを整理する.

解説・エビデンス

群発頭痛は片頭痛,緊張型頭痛とともに代表的な一次性頭痛で,発作中に同側の眼充血や流涙,鼻漏,発汗過多,眼瞼下垂,縮瞳などの自律神経症候を伴う一側の眼窩部のきわめて重度の頭痛発作がみられ,一旦出現すると1~数ヵ月間(群発期),激しい頭痛を1回/2日から8回/日の頻度で反復する6). 国際頭痛分類第3版の診断基準7)を表1に示す.特に若年~壮年期の男性に多く,群発期には就業が困難であり,一部の患者では入院加療をせざるを得なくなるなど社会的経済損失が大きい. Manzoniは群発頭痛の発症時期を10年ごとに比較して,生活習慣の変化,特に喫煙と関連して徐々に男性の優位性が低下してきていることを報告している8). 陣痛に伴う痛みよりも強いと形容され,あまりの苦痛に頭部に対する自傷行為や自殺を企てる症例も報告されている9). 群発頭痛患者と片頭痛患者のShot Form-36 (SF-36)のデータを比較すると,「体の痛み」および「社会生活機能」の項目で,群発頭痛による日常生活の障害程度は片頭痛による日常生活の障害程度と同程度またはそれ以上と報告されている10). 群発頭痛の年間発病率は人口10万人当たり9.8人と報告され11),本邦の正確な疫学調査はないが,1回/日以上の発作を来たし,家事や勤務に支障が出る本邦の群発頭痛患者は約10,000人/年と推定されている.

酸素吸入は群発頭痛の急性期治療薬として,1956年にHortonが提唱してから広く使用され,多くの研究で群発頭痛の急性期治療薬として評価されている.Kudrow12)によるとフェイスマスク側管から7L/分の酸素吸入後,7分以内に62%で改善がみられ,さらに8~10分後に31%で改善がみられた. Fogan13)は20~50歳の男性群発頭痛患者(N=19)の発作に対して,二重盲検ランダム化比較試験を酸素と対照交差として空気をそれぞれ6L/分・15分間の吸入を行い,6回の頭痛発作の改善の程度をnone(0), slight(1), significant(2), complete relief(3)に分類し,スコア化し,統計学的に検討した. 改善のスコアは酸素治療群が1.93 ± 0.22であるのに対し,空気治療群は0.77 ± 0.23であり,酸素治療群で有意に高かった(F検定,P<.01). Cohen14)は18~70歳の反復性群発頭痛(N=57)と慢性群発頭痛患者(N=19)の発作に対して,二重盲検ランダム化比較試験を酸素と対照交差として空気をそれぞれ12L/分・15分間の吸入を行い,酸素では78%の症例で群発頭痛が消失したのに対して,室内気吸入時には20%であり,酸素吸入による群発頭痛の改善が有意に高く(Wald test, P<.001),重篤な有害事象はなかった. プラセボと比較したこれらの2つのクラス1の臨床試験において酸素の群発頭痛の急性期治療薬としての有用性が示され,欧州神経学会2),米国神経学会3)・米国頭痛学会4)およびわが国の慢性頭痛の診療ガイドライン20135)において,スマトリプタンの皮下注射とともにグレードAで推奨され,国際的なコンセンサスが得られている. 本邦からはオープン試験であるが,五十嵐らが群発頭痛患者(N=23)の急性期頭痛発作時に対して,酸素(フェイスマスク側管より吸入,7L/分)の投与後,17例で平均3.1±3.1分後より頭痛の改善がみられ,平均13.5±6.2分後に頭痛が消失したと報告している15). 高気圧酸素療法に関して小規模であるがプラセポ対照ランダム化二重盲検試験の報告があり,高気圧酸素療法が頭痛の改善や持続時間を短縮する傾向が認められたとしているが有意差はなく,群発頭痛の急性期治療としての有効性は不明である1,16)

酸素の作用機序はいまだ明確でない点が多いが,これまでの研究から,①脳血管の収縮作用,②神経原性炎症の緩和作用,③副交感神経系亢進の緩和作用などが考えられている1)

スマトリプタン自己注射は即効性・利便性の点で優れているが,虚血性心疾患,脳血管障害,末梢血管障害などがみられる患者への使用は禁忌であり,悪心,胸部不快感,動悸などの副作用や自己注射が困難で使用できない症例も少なくない17). 2018年度の診療報酬改訂で在宅酸素療法指導管理料がこれまでの高度慢性呼吸不全例(慢性閉塞性肺疾患,肺結核後遺症,間質性肺炎,肺癌など),肺高血圧症,慢性心不全に加えて,群発頭痛と診断されている患者のうち,『群発期間中の患者であって,1日平均1回以上の頭痛発作を認めるもの』にも認められるようになり,在宅酸素療法の保険適応が認められた. 酸素には重篤な副作用はなく,1日に何度も使用可能なことから,スマトリプタンの使用禁忌や副作用がみられた症例や発作回数が多く,スマトリプタンのキット製剤での保険適応回数(1日2回)では十分な加療が困難であった症例を中心として,酸素吸入療法の使用が期待される.

なお,酸素濃縮装置の進歩により90%以上の濃度で7L/分以上の酸素供給が可能な装置では,酸素ボンベによる酸素吸入と同様の有用性が確認されている18).スプレー缶式の酸素吸入では濃度が不足するため効果がない.

群発頭痛の診断基準(表1)
A.B~D を満たす発作が5回以上ある
B.未治療の場合,重度~きわめて重度の一側の痛みが眼窩部,眼窩上部または側頭部のいずれか1つ以上の部位に15~180 分間持続する
C.以下の1項目以上を認める
 1. 頭痛と同側に少なくとも以下の症状あるいは徴候の1項目を伴う
  a) 結膜充血または流涙(あるいはその両方)
  b) 鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)
  c) 眼瞼浮腫
  d) 前額部および顔面の発汗
  e) 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)
 2. 落ち着きのない,あるいは興奮した様子
D.発作時期の半分以上においては,発作の頻度は1 回/2 日~8 回/日である
E.ほかに最適なICHD-3の診断がない

検索式・参考にした
二次資料

1)検索DB: PubMed(2018/4/1)
cluster headache & guideline 45
cluster headache & oxygen inhalation 108
cluster headache & oxygen inhalation & double blind 10

2)検索DB: 医中誌(2018/4/1)
群発頭痛 & 酸素吸入療法 78
群発頭痛 & 酸素吸入療法 & 急性期治療 10
群発頭痛 & 酸素吸入療法 & 急性期治療 & 二重盲検 1
・二次資料,ハンドサーチにより9文献追加(文献5~11 ,16, 17)

参考文献のリスト

 

1) Petersen AS, Barloese MC, Jensen RH: Oxygen treatment of cluster headache: a review. Cephalalgia 2014; 34(13): 1079-87.

2) May A, Leone M, Afra J, Linde M, Sándor PS, Evers S, Goadsby PJ; EFNS Task Force.: EFNS guidelines on the treatment of cluster headache and other trigeminalautonomic cephalalgias. European Journal of Neurology 2006; 13: 1066-1077.

3) Francis GJ, Becker WJ, Pringsheim TM: Acute and preventive pharmacologic treatment of cluster headache. Neurology. 2010; 75(5): 463-473.

4) Robbins MS, Starling AJ, Pringsheim TM, Becker WJ, Schwedt TJ: Treatment of Cluster Headache: The American Headache Society Evidence-Based Guidelines. Headache 2016; 56(7): 1093-1106.

5) 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会:群発頭痛急性期(発作期)治療薬にはどのような種類があり,どの程度の有効性か(慢性頭痛の診療ガイドライン;日本神経学会・日本頭痛学会監修),医学書院:東京,pp226-228, 2013.

6)慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会:群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛はどのように診断するか(慢性頭痛の診療ガイドライン;日本神経学会・日本頭痛学会監修),医学書院:東京,pp218-220, 2013.

7) Headache Classification Committee of the International Headache Society: The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition: Cephalalgia 38(1): 1-211, 2018

8) Manzoni GC: Gender ratio of cluster headache over the years: a possible role of changes in lifestyle. Cephalalgia 1998;18(3): 138-142.

9)Matharu MS and Goadsby PJ: Trigeminal Autonomic Cephalalgia: Diagnosis and Management. Wolff's Headache and Other Head Pain (Eight edition; Silberstein SD, Lipton RB, Dodick DW (Ed.)), Oxford University Press, New York, pp 386-390, 2008.

10) Ertsey C, Manhalter N, Bozsik G, Afra J, Jelencsik I: Health-related and condition-specific quality of life in episodic cluster headache. Cephalalgia 2004; 24(3): 188-196.

11) Swanson JW, Yanagihara T, Stang PE, O'Fallon WM, Beard CM, Melton LJ 3rd, Guess HA. Incidence of cluster headaches: a population-based study in Olmsted County, Minnesota. Neurology 1994; 44(3 Pt 1): 433-437.

12) Kudrow L: Response of cluster headache attacks to oxygen inhalation. Headache 1981; 21(1):1-4.

13) Fogan L: Treatment of cluster headache. A double-blind comparison of oxygen air inhalation. Arch Neurol. 1985; 42(5): 362-363.

14) Cohen AS, Burns B, Goadsby PJ. High-flow oxygen for treatment of cluster headache: a randomized trial. JAMA 2009; 302(22): 2451-2457.

15) 五十嵐久佳,坂井文彦,神田 直,田崎義昭.群発頭痛発作に対する酸素吸入療法について.日本内科学雑誌 1988; 77(2): 267.

16) Leone M, Franzini A, Cecchini AP, Mea E, Broggi G, Bussone G. Cluster headache: pharmacological treatment and neurostimulation. Nat Clin Pract Neurol. 2009; 5(3): 153-162.

17) 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会:どのような頭痛患者にスマトリプタン在宅自己注射による治療を行うか(適応,副作用,使用禁忌)(慢性頭痛の診療ガイドライン付録 スマトリプタン在宅自己注射ガイドライン;日本神経学会・日本頭痛学会監修),医学書院:東京,pp306-308, 2013.

18) 山田洋司:群発頭痛に対する在宅酸素療法.高知県医師会医学雑誌2017;22(1):214-219.