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群発頭痛の在宅酸素療法はどのように実施するか

 

推奨
わが国では,在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)の酸素供給装置として,酸素濃縮装置と液化酸素の使用が可能である.両者の利点と欠点を考慮し,群発頭痛患者の日常生活のニーズにあった酸素供給装置を選択する.HOTを指示する医療機関の医師は酸素投与方法,緊急時の対処法,火気の取扱いなどについて,患者やその家族等に十分な説明が必須である.
推奨のグレード
  A

背景・目的

わが国では,2007年にスマトリプタンのキット製剤が保険適応になるまで,群発頭痛の発作頓挫において,酸素吸入が必要な患者は医師の斡旋により私費で酸素販売業者から医療用酸素供給装置や酸素濃縮装置をレンタルしていた.(2009年からは薬事法が改正され,医療用酸素供給装置をレンタルすることができなくなった.) スマトリプタンに対する使用禁忌や副作用がみられる患者では保険適用の範囲内で十分な加療が困難であった. 2018年度の診療報酬改訂で群発頭痛患者におけるHOTの保険適用が認められるようになり,従来の治療法では十分な治療効果が得られなかった患者にも選択肢がふえ福音がもたらされた. 保険適用にあわせて,HOTの普及と適正使用のためにガイドラインを作成した.

解説・エビデンス

HOTは,酸素濃縮装置,液化酸素および酸素ボンベを用いて,自宅で高濃度の酸素吸入をする治療法である. 1985年に保険適用が認められ,徐々に対象疾患が追加され,2018年度の診療報酬改訂で在宅酸素療法指導管理料<C103>のその他の場合の対象となる患者として,「関連学会の診断基準により群発頭痛と診断されている患者のうち,群発期間中にあって,1日平均1回以上の頭痛発作を認めるもの」が新たに追加された1). 在宅酸素療法指導管理料<C103>は1回/月を限度に2,400点の保険請求が可能であり,HOTを指示する医療機関の医師は,酸素投与方法(使用機器・ガス流量・吸入時間等)および夜間も含めた緊急時の対処法について,患者やその家族等に十分説明する必要がある2). 特に喫煙等が原因と考えられる火災により死亡するなどの事故が発生しているため,酸素吸入時の火気の取扱いについて,厚生労働省からも注意喚起がなされており3),繰り返しの説明が必須である.

酸素供給装置は薬事法第2条に示される医療機器であり,液化酸素装置と酸素ボンベに充填されているガスは同法に規定されているガス性医薬品である.ともに同法14条の規定に基づき承認・許可されたものである2).酸素ガスの取り扱いは高圧ガス保安法で定められている2)

①酸素濃縮装置
保険適用が認められる以前はHOTに用いられる酸素供給装置は,設置型の高圧酸素ボンベが過半数を占めていたが,保険適用以降は空気中の酸素を濃縮する酸素濃縮装置が登場した. 当初は,膜型で酸素濃度が40%程度までであったが,現在は吸着型が使用され,酸素濃度は88~95%まで高くなり,技術革新により静音化,低消費電力化,小型軽量化といった開発改良が進み,慢性呼吸不全症を中心としたわが国のHOTの約95%は酸素濃縮装置が使用されている4),5). 供給される酸素濃度は100%ではなく88~95%で流量が多いほど酸素濃度は低下する5). 群発頭痛の発作頓挫に濃度が100%未満の酸素が有効であるという十分なエビデンスはないが,山田6)が酸素濃縮装置での有効例を報告しており,経験的にも有効である. 酸素濃縮装置は後述する液化酸素に比し,設置やメンテナンスに手間がかからない.酸素濃縮装置は最大酸素流量が7L/分であるが,電源があれば連続使用が可能であることから,在宅での使用に適しており5),群発頭痛において特に夜間就寝後など在宅時の発作が多い患者や煩雑なメンテナンスを嫌う患者などに対しての有用性が期待される. 酸素濃縮装置<C158>は在宅療養指導管理材料加算として,3回/3月を限度に4,000点の保険請求が可能である1)

②携帯用酸素ボンベ
携帯用酸素ボンベは,患者が外出する際に使用する.勤務先などでは,緊急用の中型酸素ボンベを設置する場合もある. 酸素ボンベは容器とバルブからなり,高圧ガス保安法に従って製造されている.携帯用酸素ボンベ一式は,酸素ボンベと圧力調整器,流量調整器,運搬用カート(ないしリュック)などで構成される. 使用者は1日1回以上,安全に使用するために点検を行う必要がある2). 携帯用酸素ボンベは最も大きなボンベでも70分(7L/分)しか使用できず,また,1本毎の注文が必要であるため,酸素濃縮装置と携帯用酸素ボンベの組み合わせを処方指示されることが最も一般的である. 携帯用酸素ボンベ<C157-1>は使用本数にかかわらず,880点の保険請求が可能である1)

③液化酸素
液化酸素は1990年に保険適用が認められた. 液化酸素の沸点はマイナス183℃で,気化すると体積は800~900倍になるので,比較的小さな容器に貯蔵された液化酸素でも,相当量の酸素を吸入することができる2). 家庭用に大きな液化酸素ボンベ(親容器)を設置し,そこから気化した酸素を吸入する.携帯型液化酸素装置である携帯用容器(子容器)に液化酸素を充填し,それを家庭内や外出時に使用することも可能である. 携帯用酸素ボンベに比べ,長時間の酸素吸入が可能である.親容器,子容器ともに完全密閉型でないため酸素が自然蒸発するので,使用量が少なくても最低月2回は液化酸素を充填した親容器の交換が必要である2). 酸素ボンベと同様に,使用者は1日1回以上,安全に使用するために点検を行う必要がある.液化酸素装置<C159-1>を導入する場合,3回/3月を限度に3,970点の保険請求が可能である. 携帯型液化酸素装置<C159-2>を併用するとさらに880点の保険請求が可能である1). 医師の指導管理が必要なことは酸素濃縮装置などと同様であるが,さらに,高圧ガス保安法に基づき,使用開始の20日前までに各都道府県への届出手続きが必要である5). やや煩雑な親容器の交換や使用前の届け出が必要であることなどのため,普及率は約5%に留まっている2)4)

Rozen7)は低流量(7~10L/分)の酸素吸入に不応性であった3人の群発頭痛患者に対して,高流量酸素(14~15L/分)を投与し,2人は完全な頭痛緩和が得られ,1人は70~100%の軽減が得られたことを報告している. Cohenら8)は高流量(12 L/分)の100%酸素を空気と比較した二重盲検ランダム化比較試験を行い,高流量酸素の有効性を報告している.

液化酸素は電気代不要で,供給される酸素濃度は100%で,さらに,酸素濃縮装置の最大酸素流量が7L/分であるのに対し,高流量の酸素投与が可能である2). これらの利点を生かし,外出時に発作が多い患者や低流量で発作頓挫効果が乏しい患者などに対しての有用性が期待される.

以上のように,わが国では,在宅酸素療法の酸素供給装置として,酸素濃縮装置と液化酸素の使用が可能である. 両者の利点と欠点を考慮し,群発頭痛患者の日常生活のニーズにあった酸素供給装置を選択する. また,スマトリプタンは有効であるが,発作回数が多く,スマトリプタンの保険適応(2本/日)で不十分な患者ではHOTとスマトリプタンキットの併用も選択肢として挙げられる.

表1 酸素濃縮装置と液化酸素装置の比較(文献5より引用改変)

検索式・参考にした
二次資料

1)検索DB: PubMed(2018/4/1)
cluster headache & guideline 45
cluster headache & oxygen inhalation 108
cluster headache & home oxygen therapy 5

2)検索DB: 医中誌(2018/4/1)
群発頭痛 & 酸素吸入療法 78
群発頭痛 & 酸素吸入療法 & 急性期治療 10
群発頭痛 & 在宅酸素療法 1
・ハンドサーチにより5文献追加(文献1-5)

参考文献のリスト

 

1)http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html

2)岸田遼生:「酸素供給装置」を正しく理解する.コミュニティケア 2010;12(12):57-63.

3)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003m15_1.html

4)宮崎 正:在宅酸素療法の機器開発の現状と期待.THE LUNG-perspectives 2011; 19(3):272-276.

5)日本呼吸器ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル作成委員会,日本呼吸器学会 肺生理専門委員会:酸素供給装置(酸素療法マニュアル改訂版;日本呼吸器ケア・リハビリテーション学会・日本呼吸器学会),メディカルレビュー社:東京,pp69-72, 2017.

6)山田洋司:群発頭痛に対する在宅酸素療法.高知県医師会医学雑誌2017;22(1):214-219.

7)Rozen TD: High oxygen flow rates for cluster headache. Neurology 2004; 63(3): 593.

8)Cohen AS, Burns B, Goadsby PJ. High-flow oxygen for treatment of cluster headache: a randomized trial. JAMA 2009; 302(22): 2451-2457.