㈸−3
性行為に伴う一次性頭痛はどのように診断し,治療するか

 

推奨
1.  診断
性行為に伴う一次性頭痛は国際頭痛分類第 2 版( ICHD- ㈼)に準拠して診断する.性行為によって誘発される頭痛であり,頭部画像検査や髄液検査で頭蓋内疾患を除外する
2.  治療
性行為に伴う一次性頭痛の治療は,疾患の説明と相談が重要である.性行為の中断により頭痛発作が治まることがある.エビデンスのある薬物療法はないが,インドメサシン,エルゴタミン,プロプラノロールが有効な場合がある
推奨のグレード
A  
 

 

背景・目的

性行為に伴う一次性頭痛は一次性頭痛の中でもまれな疾患である.本疾患の診断に有用な総説,症例研究,治療に関する論文を検索した.


解説・エビデンス

1.  診断
性行為に伴う一次性頭痛は, ICHD-II 1) に準じて診断され,オルガスムス前頭痛とオルガスムス時頭痛に分類される.前者は頸・顎部の筋収縮の自覚を伴う頭頸部の鈍痛で,性行為中に起こり,性的興奮で増強する.後者は突発性,爆発性で重度の頭痛で,オルガスムス時に生じる.性交時に出現する頭痛を訴える患者では本疾患の診断が考慮されるが,初発時ではくも膜下出血や動脈解離などを除外するために,頭部画像検査が必須である.性行為に伴う一次性頭痛は一次性労作性頭痛,片頭痛との関連性が約 50 % の症例で報告されている.頭痛の持続時間は通常1分から3時間と考えられるが確かなデータはない ( エビデンスレベル II) .
ドイツの神経内科頭痛クリニック受診者を対象にした報告では,標準的なインタビユー形式を用いて ICDH-I に準じて本疾患を診断し,頭部画像検査と髄液検査で頭蓋内疾患を除外している.性行為に伴う一次性頭痛 51 例を分析し,本疾患を診断する際に参考となる臨床的特徴が要約されている.内訳は1型(性的興奮とともに軽度な徐々に進行する鈍痛型) 11 例,2型(突然の激痛が生じる爆発型) 40 例,3型(体位性の頭痛) 0 例で,平均年齢 (SD) は1型 39.5±10.3 歳,2型 34.0±10.5 歳,いずれも男性優位である.発症年齢には 20-24 歳と 35-44 歳で二峰性ピークが認められた.疼痛は両側性,全体ないし後頭部,拍動性の性質が多く,激痛と軽度疼痛の持続時間には両型で有意な差はなかった.患者に特別な性的習慣はなく,頭痛は常時パートナーとの性交や自慰行為で出現した.他の一次性頭痛である片頭痛,一次性労作性頭痛,緊張型頭痛が高率に合併していた.1型と2型は異なった症状を呈する同一の疾患であることを結論している 2) ( エビデンスレベル III) .
注) 2004 年に発表された ICHD-II 1) では ICHD-I の1型 ( 鈍痛型 ) はオルガスムス前頭痛,2型 ( 爆発型 ) はオルガスムス時頭痛に相当する.3型 ( 体位性の頭痛 ) は髄液漏出によって起こるため, ICHD-II では特発性低髄液圧性頭痛にコード化されている.


2.  治療
オルガスムス前頭痛では性行為の中断により頭痛発作が治まることが多い 2) .本疾患の治療に関しては症例数が少ないこともあり,十分な科学的根拠を有するものはない.現状では患者への疾患の説明やカウンセリングが重要である ( エビデンスレベル III) 2) .薬物療法はインドメサシン,エルゴタミン,プロプラノロールが有効な症例が報告されているが 3) 4)8)9) ,その有用性は不明である ( エビデンスレベル IV) .

 

参考文献のリスト

1) Headache Classification Subcommittee of the International Headache Society:
  the International Classification of Headache Disorders; 2nd Edition. Cephalalgia
  2004; 24 (suppl 1): 1-160.
2) Frese A, Eikermann A, Frese K, Schwaag S, Husstedt I-W, Evers S. Headache
  associated with sexual activity: demography, clinical features, and comorbidity.
  Neurology 2003; 23; 61: 796-800.
3) Pascual J, Iglesias F, Oterino A, Vazquez-Barquero A, Berciano J. Cough,
  exertional, and sexual headaches: an analysis of 72 benign and symptomatic
  cases. Neurology 1996; 46: 1520-4.
4) Johns DR. Benign sexual headache with one family. Arch Neurol 1986; 43:
  1158-60.
5) Lance JW. Headache related sexual activity. J Neurol Neurosurg Psychiatry
  1976; 39: 1226-30.
6) Paulson GW, Klawans HL. Benign orgasmic cephalalgia. Headache 1974; 13:
  181-7.
7) Kriz K. Coitus as a factor in the pathogenesis of neurologic complications. Cesk
  Neurol 1970; 33: 162-7.
8)Lane JC, Gulevich S. Exertional, cough, and sexual headaches. Curr Treat
  Options Neurol 2002; 4: 375-81.
9)Porter M, Jankovic J. Benign coital Cephalalgia. Differential diagnosis and
  treatment. Arch Neurol 1981; 38: 710-2.

検索式・参考にした
二次資料

Headache
& {Sexual activity} 199
& {Migraine} 29
Sexual Headache 340
& {Migraine} 47
& {Treatment} 4
検索 DB : PubMed (04/12/05)

Sexual headache 340
& {Migraine} & {Treatment} 9
検索 DB : PubMed (04/12/05)  

備考1(意見)

本邦では羞恥心の強い人が多いため,頭痛外来でも本患者は少ないと推察されている.頭痛専門外来の他に,夜間の救急外来に患者が来院する可能性もあり,本疾患の存在を医療従事者に広く認識してもらう必要がある


備考2

参考文献のリストは PubMed で Headache , Sexual activity , Migraine および Sexual Headache , Migraine を入力検索し,作成した.