Ⅷ-5
単一遺伝子異常による頭痛の患者の頻度はどれくらいか,
またその場合遺伝子診断はできるか

 

推奨
現時点ではデータがなく,明確なことは言えない.また,診断は技術的には可能であるが,症例を選択して行うべきである.すなわち症候として片頭痛を生じる家族性片麻痺性片頭痛 1 型, 2 型, CADASIL , MELAS , Osler-Rendu-Weber 病の原因遺伝子が同定されているが,これらの遺伝子は「ありふれた疾患( common disease )」としての片頭痛への関与は少ない.単一遺伝性の各疾患を疑わせるような特徴のある患者において,遺伝子診断に一定の意味があると考えられる
推奨のグレード
C  

 

背景・目的

単一遺伝子の異常による頭痛の原因遺伝子が同定され,それらの common disease としての片頭痛における寄与がどの程度あるのかが注目されている.


解説・エビデンス

一般の診療で遭遇する頭痛患者のうち,どれ位の頻度で単一遺伝子異常による頭痛患者が存在するかは興味深いが,現時点ではその問いに答えられる疫学的調査は存在しない.
遺伝子診断は,技術的には可能であるが,頭痛を生じる単一遺伝子異常のすべてを検索することは容易かつ現実的ではない.また,一般の片頭痛におけるこれら単一遺伝子異常の存在については,今までのところ否定的な報告が多く,以下の疾患を示唆する症候やメンデル遺伝形式を示す家族歴が存在する時に初めて,遺伝子診断を行うか否か検討するべきである.参考までに,遺伝子検索が有用な場面があると推察される疾患を以下に列挙する.
CACNA1A (MIM 601011) :家族性片麻痺性片頭痛 1 型の原因遺伝子である. SNP 解析やハプロタイプ解析はされていないので,疾患感受性遺伝子として働いている可能性は完全には否定できない.
ATP1A2 (MIM 182340) :家族性片麻痺性片頭痛 2 型の原因遺伝子である.通常の片頭痛には関与しているという報告はない.学会発表レベルでは前兆のない片頭痛の大家系で変異が見つかったとの報告はある.
NOTCH3 (MIM 600276) : CADASIL の原因遺伝子である.片頭痛における変異の検索をした研究はまだ存在しない.前兆の遷延や,頭部 MRI 上広範な白質障害を伴うなどの非典型的所見がない限り,積極的に検索する必要はない.
ENG (MIM 131195), ACVRL1 (MIM 601284) : Osler-Rendu-Weber 病の原因遺伝子である.片頭痛患者における変異について検討した報告はない.
ミトコンドリア遺伝子: MELAS で変異が認められる.片頭痛の存在のみでなく,前兆が遷延する群や母親にも片頭痛が存在する群を抽出するなど,サブグループ化してミトコンドリア遺伝子を検索した報告があるが,いずれも変異は見つかっていない.

 

参考文献のリスト

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  Jan;19(1):20-2.


検索式・参考にした
二次資料

検索式: 最終検索日  04/11/27
migraine
& CACNA1A : 109
& ATP1A2 : 24
& CADASIL : 80
& NOTCH3 : 33
& MELAS : 41
検索 DB: PubMed