頭痛専門医試験講評


平成27年11月26日

頭痛専門医試験講評

第8回日本頭痛学会専門医試験を2015年8月1日に東京で実施した。例年どおり200問を3時限にわけて実施した。受験者35名、合格者31名、合格率88.5%であった。平均点は72.1点で、最低点は56.0点、最高得点は84.5点であった。

日本頭痛学会の専門医試験問題は約30名の専門医委員会委員が分担して作問し、提出された問題を専門医委員会委員長、副委員長、専門医試験小委員会の委員長、副委員長で200問に厳選し、そのレベルと妥当性とを評価・確認し、さらにbrush-upしている。出題は、頭痛に関連する解剖、生理、生化学、薬理など基礎的な知識を問うもの、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経自律神経性頭痛などの一次性頭痛の臨床的知識や経験を問う問題がラインナップされている。二次性頭痛の知識も頭痛専門医として必須のものが出題されている。

主要な一次性頭痛の診断基準、急性期治療、予防療法などに関する問題は概ね正答率が高かった。成績が芳しくなかったのは、片頭痛患者におけるセロトニンの動態、家族性片麻痺性片頭痛の遺伝子の働き、アロディニアに関与する神経核、疼痛に関連する視床核、ホルモン補充療法の禁忌事項、慢性群発頭痛の治療手技(デバイス)、雷鳴頭痛の原因、グルタミン酸ナトリウム誘発頭痛の特徴、飛行機頭痛に関するものなどであった。慢性頭痛の診療ガイドライン2013、国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)からの出題が多いが、up-to dateな問題も出題されているので、頭痛学会誌や頭痛の特集を組んでいる医学雑誌、頭痛学会総会、 Headache Master School Japan(HMSJ)などで最新の情報も得ておくとよいと思われる。

各受験者には10症例の経験症例要約(サマリー)を提出していただいている。
疾患の種類については特に細かな制限や基準を設けていないが必ず一次性頭痛の症例を含めるように求めている。各受験者の症例要約は専門医委員2名が査読しており、評価が悪いと症例要約のみで不合格となることもあるので注意が必要である。第8回試験では、最終的には症例要約による不合格者はなかったが、数名の受験者は査読委員2名のうち1名が不合格評価をしていた。今後の受験者の参考のため、委員会による議論のポイントを解説しておきたい。頭痛診断はICHD-3βに沿って、コード番号とともに記載する必要がある。ICHD-3βに掲載されていない頭痛病名を使用する場合はその理由や合理性を明確に記載する必要がある。10症例の選択のバランスについても評価される。少なくとも3例は片頭痛を含め一次性頭痛の症例を含めていただきたい。さらに、一次性頭痛の症例要約では、診断根拠や治療方針、治療経過などについて記載し、受験者が片頭痛や群発頭痛を実際に丁寧に診断し治療していることがわかるように記載していただきたい。

評価の高い症例要約の多くは頭痛学会認定教育施設からのものであった。 不合格になりうる症例要約としては、誤字、脱字が多いもの、類似の頭痛症例を2例提出し、その考察の一部が明らかにコピー・ベーストされているもの、一次性頭痛の症例が皆無、 考察において文献の引用が全くないものなどが挙げられる。一次性頭痛の診療で単回の診察で処方のみで終わっており、治療効果のfollowができていないケースなどは、症例要約としては不適切である。また、処方薬の服用時の留意点等、指導内容についても適切に記載されていることが望ましい。評価の低い症例要約は指導医が十分に内容を吟味、確認をしていないと思われる。今後、症例要約の指導者署名欄には、頭痛学会専門医の署名が必要となるよう改訂を検討している。施設内に頭痛専門医が不在の場合,できれば地域や関連施設の頭痛学会指導医や代議員にレポートの確認とアドバイスを受けることが望ましい。また、症例要約の準備には相当の時間がかかるので、受験者は早めに準備するよう勧めたい。

頭痛専門医試験問題・解説集も発刊したので、今後の受験の参考にしていただきたい。第9回試験(2016年)はこれまでどおり、学会認定教育施設以外における研修でも認められるが、第10回(2017年)より、認定施設による3年間の研修が必須となる。ただし、少なくとも5年間はHMSJの受講とPostExamの合格、頭痛学会総会の教育セミナー受講により必須の研修歴に振り替える措置を行うことが決定されている。

わが国の頭痛医療のレベルが向上し、すべての頭痛患者が頭痛医療の進展の恩恵が受けられるよう、より多くの頭痛専門医が各地で活躍いただくことを期待している。

日本頭痛学会  
専門医委員会 委員長 竹島多賀夫
  副委員長 清水利彦
専門医試験小委員会 委員長 古和久典
  副委員長 柴田 護