解説・エビデンス
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まず頭痛の分類について国際頭痛分類第 2 版の内容を把握しておく必要がある 3)4) . 危険な頭痛の存在は以下の発症や経過を示すときに疑う 5) .すなわち,発症の年齢が 5 歳以下または 50 歳以上,過去 6 ヵ月以内の発症, 5 分以内に最強度に達する超急性の経過,非典型的な症状を伴うとき,頭痛とともに今までに経験したことがない症状が出現したとき,局所神経所見があるとき,神経症状の改善のないとき,症状として発疹や頭部の圧痛,外傷,感染,高血圧があるとき,などである.
6) Dodick は簡潔で分かりやすい一次性 / 二次性頭痛鑑別臨床的手掛りとして SNOOP を紹介している .
■SNOOP: 診断の際の臨床的手掛り
Systemic symptoms / signs (全身性の症状・徴候:発熱,筋痛,体重減少)
Systemic disease (全身性疾患;悪性疾患, AIDS )
Neurologic symptoms or signs ( 神経学的症状や徴候)
Onset sudden (突然の発症:雷鳴頭痛)
Onset after age 40 years ( 40 歳以降の発症)
Pattern change (パターンの変化)(頭痛発作間隔が次第に狭くなる進行性の頭痛,頭痛の種類の変化)
頭痛を主訴として総合診療内科に受診した患者のうち神経所見のない 264 人に Q1 「これまでで最悪の頭痛か」, Q2 「増悪しているか」, Q3 「突然発症か」の 3 つの質問をしたところ,もっとも陽性的中率が高かったのは Q1 「増悪」で,つぎが Q3 「突発」であった. 3 つの質問に非該当の症例は危険な頭痛はなかったというデータも参考になる 7) .
Cortelli らは救急部 (ED ; emergency department ) の非外傷性頭痛のエビデンスに基づく診断を 4 つの臨床のシナリオについて,医学文献の広範囲なレビューに基づき,コンセンサスを次のようにまとめた 8) .
■ 非外傷性頭痛急患の診断シナリオ
● シナリオ 1
重症の頭痛(「最悪の頭痛 "worst headache" 」)により ED に入院した成人患者で下記のいずれかを伴う場合
* 急性発症(「雷鳴頭痛 "thunderclap headache" 」)
* 局在神経学的所見(または意識障害のような非局在神経学的所見)
* 頭痛発症時に嘔吐または失神
→頭部CTスキャンを行う
→もしCTスキャンが陰性,不確実,画像不良の場合,腰椎穿刺を行う
→もし腰椎穿刺が問題ない場合, 24 時間以内に神経内科医の診察が必要である
● シナリオ 2
重症の頭痛のために ED に入院した成人患者の場合
* 発熱または項部硬直 ( あるいはその両方 ) を伴う
→頭部CTスキャンと腰椎穿刺を行う
● シナリオ 3
下記の状況で, ED に入院した成人患者の場合
* 最近(日または週の単位)発症した頭痛
* 次第に悪化する頭痛または持続する頭痛
→頭部CTスキャン
→ルーチン血液検査 (血沈, CRP 検査を含む)
→検査が正常の場合, 7 日以内に神経学的診察を行う
● シナリオ 4
以前から頭痛の既往をもつ成人の場合
* 頭痛は強度,持続と随伴症状に関して以前の発作に類似する
→生命徴候,神経所見,ルーチン血液試験を行う
→これらが正常の場合, ED から退室する
→退院後は,病診連携を行う
Kowalski らはアメリカの第三次病院に入院した 482 人のくも膜下出血患者の初期誤診と転帰の関連性をコホート研究により調査した 9) .それによると 12% のくも膜下出血患者は誤診されていた.片頭痛または緊張型頭痛( 36% )が最も頻度の高い誤診断名であった.誤診は少量の出血と正常な精神状態の場合に起こりやすかった.誤診された患の生命・機能予後は不良であった.くも膜下出血を疑う患者については軽症そうに見えても CT スキャンを積極的に行うべきである.積極的な CT 検査は,誤診の頻度を減らす可能性がある.CTや髄液所見が正常であっても MR の FLAIR 法でくも膜下出血の診断が可能である 10) .
Lewis と Qureshi は小児と青春期の男女において急激な重症頭痛の原因を分析した 11) .その結果によると,発熱を伴う上気道感染症,副鼻腔炎または片頭痛がもっとも多い原因である.急性頭痛の部位が後頭部である場合,患者が頭痛の性状をはっきりと述べることができない場合は,特別な配慮が必要となる.脳腫瘍または頭蓋内出血のような重篤な基礎疾患はまれである.しかし存在する場合は,複数の神経学的徴候(運動失調,不全片麻痺,うっ血乳頭)を伴ったという.
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参考文献のリスト
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1) 横山雅子 , 堀進悟 , 青木克憲 , et al. 救急搬送患者における頭痛 .
日本頭痛学会誌 2001;28(1):4-5.
2) Blumenthal HJ, et al.: Treatment of Primary Headache in the Emergency
Department. Headache 2003; 44: 1026-1031.
3) Headache Classification Subcommittee of the International Headache Society:
The International Classification of Headache Disorders: 2nd edition. Cephalalgia
2004; 24 Suppl 1: 9-160.
4) 国際頭痛学会・頭痛分類委員会 : 国際頭痛分類第 2 版 (ICHD-II).
日本頭痛学会雑誌 2004; 31: 13-188.
5) 柴田興一 : 簡易診断アルゴリズム . カレントテラピー 2004; 22: 29-32.
6) Dodick DW: Clinical clues (primary/secondary), The 14th Migraine Trust
International Symposium. London , 2002
7) 馬杉綾子 : 一般外来での頭痛診断における「最悪」、「増悪」、「突発」の質問の
有用性 , 第 11 回日本総合診療医学会 . Sapporo , 2003
8) Cortelli P, et al.: Evidence-based diagnosis of nontraumatic headache in the
emergency department: a consensus statement on four clinical scenarios.
Headache 2004; 44: 587-95.
9) Kowalski RG, et al.: Initial misdiagnosis and outcome after subarachnoid
hemorrhage. Jama 2004; 291: 866-9.
10) 尾上亮 , 井川房夫 , 大林直彦 , et al.. 髄液検査で診断できなかった亜急性期
クモ膜下出血の 1 例 緊急 MRI の有用性 . 脳神経外科 2003;31:663-668.
11) Lewis DW, et al.: Acute headache in children and adolescents presenting to the
emergency department. Headache 2000; 40: 200-3.
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