解説・エビデンス
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これまでに刊行されたガイドライン1−8)では,予防薬は安全性の高い薬剤を少量から開始することをすすめているが,予防薬の適応基準と同様,選択の基準に関しても明確なエビデンスは乏しい 10) .
米国頭痛コンソーシアムガイドライン 4,5) では予防薬の選択と使用に際して考慮する事項として; A. エビデンス基づいた有効性が最も高いレベルにある薬物の投与から予防療法を始める; B. 最低用量から開始して,有害事象が無い限り,十分な臨床効果が得られる用量までゆっくり増量する; C. 各薬剤の効果判定を十分に行う必要がある.通常,臨床効果を達成するまでに 2 〜 3 ヵ月かかる可能性がある; D. 有害な薬物使用(例えば急性期治療薬の濫用)を回避する; E. 長時間作用型の製剤は、コンプライアンスを改善する可能性がある;という項目を列挙している.
また,薬剤の選択には併存する医学的状態も考慮する.いくつかの併存症( comorbid ) / 共存( coexisting )状態は,片頭痛患者において一般的に見られ,脳卒中,心筋梗塞、 Raynaud's 現象、てんかん,情緒障害および不安性疾患などの存在は,治療の機会と限界の双方に関与している.このような場合, A. 可能ならば、併存症と片頭痛の双方を治療できる薬を選択する, B. 片頭痛のために使用する治療薬は,併存疾患の禁忌でないものを選択する, C. 併存症の治療に使用される薬剤は片頭痛を悪化させないものを選択する, D. 全ての薬物相互作用にも注意する,といったことが肝要である (4;5) . また,妊婦または妊娠希望の女性に対する留意点として,予防的な薬物投与は、催奇形作用を持つ可能性があり,予防療法が不可欠の場合、胎児に対するリスクが最も低い薬剤を選択する 4,5) .
予防療法の評価には,頭痛の性状や持続の観察,急性期治療薬の使用量のモニターが有用で,頭痛日記(ダイアリ)の記載がきわめて有用である.記録は詳細な方が情報が多いが,単純な頭痛日数の記録だけでもかなり有用であるとされている 1) .予防療法の薬剤変更は,予防療法の効果を適切に評価した上で実施する必要がある.
米国内科学会のガイドライン (7) では,片頭痛予防の第一選択として,プロプラノロール( 80 〜 240mg/d )、チモロール( 20 〜 30mg/d )、アミトリプチリン( 30 〜 150mg/d )、 divalproex ナトリウム( 500 〜 1500mg/d ),バルプロ酸ナトリウム( 800 〜 1500mg/d )を推奨している.本邦における実地診療においては,片頭痛治療薬としての保険適用の有無も考慮して決める必要がある.
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参考文献のリスト
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