米国における群発頭痛に対する酸素吸入療法の実態調査

Rozen TD, Fishman RS. Inhaled oxygen and cluster headache sufferers in the United States: Use, efficacy and economics: Results from the United States Cluster Headache Survey. Headache doi: 10.1111/j.1526-4610.2010.01806.x

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

100%酸素吸入は、1950年代にBayard Hortonによって群発頭痛治療に導入され、現在でもスマトリプタン皮下注射と並び最も有効な発作頓挫治療として認識されている。年齢的に一部の群発頭痛患者は虚血性心疾患の危険因子を抱えていることから、酸素吸入療法の有用性は非常に高いと考えられる。しかし、群発頭痛治療における酸素吸入療法実施の実態は、これまで大規模な疫学調査のレベルでは報告されたことがない。

【目的】

米国で施行された群発頭痛患者についての大規模疫学研究であるUnited States Cluster Headache Survey (USCHS)の研究結果から、群発頭痛の急性期治療における酸素吸入療法の実施状況を明らかにする。

【方法・結果】

USCHSは、2008年10~12月にインターネットを通じて行われた群発頭痛患者を対象にしたアンケート調査で、1134名 (男性816名・女性318名)が回答している。なお、868名が発作性群発頭痛で、266名は慢性群発頭痛を呈していた。回答者の93%は、酸素吸入が群発頭痛の発作頓挫に有効であることを知ってはいたが、回答者の34%はこれまで全く酸素吸入を受けたことがなかった。44%の回答者は医師に酸素吸入を提案して、ようやく処方を受けている。なお、酸素吸入を提案された医師のうち12%は、処方すること拒絶しており、その最大の理由は有効性に疑問を持っているためであった。酸素吸入の処方を受けた半数の患者では、医師から実施法について全く指示を受けておらず、45%の患者は酸素ボンベの入手先を自身で探さなければいけなかった。処方時の、酸素流量は7L/分が23%、8~12L/分が51%、13~15L/分が18%、16L/分以上が8%であったが、多くの患者は有効性を得るために流量を増やして実施していた。なお、調査対象となった患者の70%は酸素が有効であると感じていた。酸素吸入の有効性は、年齢・性別・1日あたりの発作回数とは相関性がみられなかった。
発作性群発頭痛患者の方が、慢性群発頭痛患者より有効率が高かった。また、トリプタン注射単独に比較して、酸素吸入併用の方が発作頓挫の奏功率が高かった。

【結論】

米国においては、群発頭痛の急性期治療に酸素吸入療法が充分に行われていないという実態が明らかとなった。また、現在推奨されている酸素流量では、発作頓挫に不充分である症例が少なからずあることも示唆された。