キアリ1型奇形による咳嗽性頭痛の予測における2次元解剖学的測定の臨床的有用性

Huang CWC, et al. Clinical utility of 2-D anatomic measurements in predicting cough-associated headache in Chiari I malformation
Neuroradiology 2020, DOI: 10.1007/s00234-019-02356-0

【背景・目的】

咳嗽性頭痛(cough-associated headache ; CAH)は、キアリ1型奇形(CM1)患者の最も特徴的な症状であり、臨床的にCM1の存在を示唆する重要な所見である。 CM1患者におけるCAHの発症について、PACSワークステーションで行われる簡便な2次元解剖学的測定による診断制度を評価することで、その臨床的有用性を検討した。

【方法】

外科的治療が未施行の頭痛を伴うCM1患者(小脳扁桃ヘルニアが 5mm以上)で、2012年から2018年までBeth Israel Deaconess Medical Center(Boston, MA)でMRIを実施した連続72 症例(女性57例、男性15例、年齢36.5±13.1歳)が対象となった。2人の神経放射線科医が、MRI-T1強調画像矢状断により以下の項目を測定した:①小脳扁桃ヘルニアの程度(McRae線から小脳扁桃先端まで垂直に結んだ距離で測定)、②斜台の長さ、③大孔から内後頭隆起までの長さ、④McRae線(基底点と後頭点を結んだ線)、⑤pB-C2線(基底点とC2後下面を結んだ線と直交する腹側頚延髄部硬膜までの距離)、および⑥斜台と脊柱管の角度、⑦歯突起後屈角、⑧頭蓋底角。CAHの有無は診療録により確認した。

【結果】

CM1患者72例中、47例(65.3%)でCAHを発症していた。 CAHを伴う小脳扁桃ヘルニア(中央値10.2 mm、四分位範囲7〜14 mm)は、CAHを伴わない小脳扁桃ヘルニア(中央値7.9 mm、四分位範囲6.3〜10.9 mm、p = 0.02)よりも有意に程度が重度であった。CAHの発症に関して、10 mm以上の小脳扁桃ヘルニアでは感度51%と特異度68%、14 mm以上の小脳扁桃ヘルニアでは感度30%と特異度100%を示した。CAHのあり・なしについて、①小脳扁桃ヘルニアの程度以外の測定項目では、統計的に有意差は認めなかった。

【結論・コメント】

今回、使用した2次元測定項目のうち、①小脳扁桃ヘルニアの程度のみがCM1患者のCAHのあり・なしで有意差を認めた。CM1は5 mm以上の小脳扁桃ヘルニアがあれば診断されるが、CAHを発症するには、より程度の重いヘルニアが必要であることがわかった。CAHの鑑別診断においてCM1は重要な疾患であり、小脳扁桃ヘルニアの有無について、その評価はMRI撮影にて簡便に計測できるため、一度は確認しておくべきである。

文責:仙台頭痛脳神経クリニック 松森保彦