薬物乱用頭痛患者の白血球が示す遺伝子発現パターン

Hershey AD, et al. Genomic expression patterns in medication-overuse headache. Cephalalgia 2011;31:161-171.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

慢性連日性頭痛 (chronic daily headache: CDH)と慢性片頭痛 (chronic migraine: CM)は神経内科診療においてしばしば遭遇する疾患であるが、治療が困難で薬物乱用頭痛 (medication-overuse headache: MOH)の合併も散見される。現在のところMOHを適切に認識するバイオマーカーは存在しないが、本研究ではCMとMOH患者の末梢血白血球の遺伝子発現の差異を検討した。

【方法・結果】

米国Cincinnati大学に通院中で3ヶ月以上にわたって月に15日以上の頭痛を認める慢性連日性頭痛患者5~18歳の33名の患者を対象にした。遺伝子発現解析の方法としては、末梢血を採取し、mRNAを調整した後に、マイクロアレイ(Affymetrix社のHGU133 2.0+ microarray)を用いて行った。対象患者に急性期頭痛薬の休薬を行って、休薬によって頭痛が改善した患者 (レスポンダー: R群)はMOHと診断し、改善の見られなかった者 (非レスポンダー: NR群)は薬物乱用の影響なしと判断し、純粋なCMと診断した。平均年齢はR群 (n=19)で14.1+2.5歳、NR群 (n=14)で12.7+2.1歳であった。休薬前後で採血を行い、上述のようにマイクロアレイを用いて遺伝子発現パターンを検討した。休薬前の段階で、R群とNR群との間で発現レベルが1.5倍以上異なる遺伝子は43個検出された。そのうち33遺伝子に関してはR群で低発現されており、残り10遺伝子は高発現されていた。そのような発現レベルの差を示す遺伝子群は、主に神経組織・筋肉/上皮組織・免疫組織で発現されるものであった。また、休薬後に採取されたサンプルにおいて両群間で1.5以上の発現レベルの違いを示す遺伝子群は206個同定された。そのうち193遺伝子がR群で低値を示していた。それらの遺伝子産物が有する生物学的機能としては、アポトーシス実行系・リンパ球血管外遊走・細胞内顆粒の輸送や融合に関与するSNARE 系などに属していた。

【考察】

本研究の意義は、末梢血白血球の遺伝子発現パターンの違いがMOHとCMを鑑別するバイオマーカーとして有用であることと、MOHあるいは慢性片頭痛の病態にアポトーシスなどの関与がある可能性を初めて示したことにある。小児を含む若年者で行われた研究であるため、一般成人にも当てはまるかなどについてさらなる検討が必要であろう。