硬膜感受性視床ニューロンの大脳皮質への投射

Noseda R, et al. Cortical projections of functionally identified thalamic trigeminovascular neurons: Implications for migraine headache and its associated symptoms. J Neurosci 2011;31:14204-14217.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛発作時の頭痛は、三叉神経血管系を介して起こるのではないかと考えられている。三叉神経血管系を構成する三叉神経の一次ニューロンは、二次ニューロンである三叉神経脊髄路核とシナプスを形成し、さらに三次ニューロンである視床ニューロンを経由して最終的には大脳皮質へと至る。本研究は、三叉神経血管系に属する硬膜三叉神経への侵害刺激に反応する視床ニューロンを同定し、さらにそれらのニューロンが大脳皮質のどの部位に投射しているかを詳細に検討している。

【方法】

Sprague-Dawleyラットの視床にガラス製の微小ピペット電極を設置した。また、開頭を加え、横静脈洞上の硬膜に電気刺激をパルス状に加えた際に電気的な応答を示したニューロンを同定し、さらに機械的刺激と化学的刺激 (1 M KCl)の両者にも反応した場合に、硬膜感受性ニューロンと定義した。さらに、ブラシによる非侵害性の刺激とピンチング (pinching)による侵害性の刺激に対する反応性によって、それらのニューロンが侵害受容性の三叉神経と関連性があるかを判別した。視床に挿入されたガラス電極が電気活動を記録していたニューロンの特定には、イオントフォレーシス (iontophoresis)によるテトラメチルロダミン-デキストラン (tetramethylrhodamine-dextran)標識を施行した。それらのニューロンの投射経路の追跡は、テトラメチルロダミンの蛍光や免疫染色によって行った。硬膜感受性ニューロンとして得られた12個のニューロンの中で、4個がVPM核に、5個がPo (posterior)核に、3個がLD (lateral dorsal)/LP (lateral posterior)核に存在していた。その投射先は、体性感覚野であるS1/S2・島皮質・頭頂連合野のみならず、膨大後部皮質 (retrosplenial cortex)・聴覚野/嗅外野・視覚野と非常に広範であった。しかも、S1の中でも三叉神経系と関連のない部位へも投射が確認された。一方、硬膜非感受性ニューロンの投射先は、S1の三叉神経関連部位/S2・島皮質・頭頂連合野・聴覚野と限定的であった。

【結論】

片頭痛発生に強い関連性を示すと考えられる硬膜感受性視床ニューロンが、体性感覚や辺縁系のみならず、視覚野や膨大後部皮質など多彩な大脳皮質に広範に投射していることが明らかとなった。膨大後部皮質は、新たな情報の獲得や言語機能に関係がある。このことは、片頭痛発作時の光過敏や知的活動の低下に、視床に伝えられた三叉神経血管系からの侵害刺激が密接に関係している可能性を示唆した解剖学的な証拠と考えられる。また、そのような片頭痛発作時の随伴症状は、皮質間の間接的な線維連絡を介して生じると考える向きがあったが、むしろ同一の視床ニューロンが様々な皮質ニューロンに直接的にシグナルを伝達することで生じる可能性が提示された。