片頭痛患者に認められた中脳水道周囲灰白質と脳内他部位との機能的結合性の変化

Mainero C, et al. Altered functional magnetic resonance imaging resting-state connectivity in periaqueductal gray network in migraine. Ann Neurol 2011;70:838-845.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

中脳水道周囲灰白質 (periaqueductal gray: PAG)は、体性痛覚の神経伝達調節を行っており、片頭痛患者で機能的異常や鉄沈着などの器質的異常が存在することが報告されている。片頭痛の発生に、PAGなどが構成する下行性侵害受容調節系の変調によって三叉神経血管系の感作されることが重要と考えられている。片頭痛発作時に認められるアロディニアの発生はこれを支持する臨床所見である。Resting-state functional MRI (fMRI)は、安静時に観察される低頻度自発的変動 (low-frequency spontaneous fluctuations)の脳内の複数の部位間における相関性を解析することで、それらの脳内部位の機能的結合の有無を明らかにする研究手法である。本研究では、PAGを中心にresting-state fMRIを施行して片頭痛患者と健常対照者の差異を検討している。

【方法・結果】

片頭痛患者17名 (女性15名・男性2名、年齢32.4 ± 8.2歳)と健常対照者17名 (女性15名・男性2名、年齢31.9 ± 8.45歳)を対象とした。両群においてPAG近傍で機能的結合が認められた部位は、脳幹 (おもに中脳)・視床・被殻・海馬傍回・小脳であった。さらに、帯状回前部・前頭葉および側頭葉皮質などの遠隔部位にも機能的結合性が認められた。これに加えて片頭痛患者では、中心前回と中心後回皮質にも強い機能的結合性が観察された。片頭痛患者で、健常者と比較して有意に強い機能的結合性が確認された部位は、右腹外側前頭前部皮質・右縁上回・右島皮質前部・右中心前回 (M1)・右中心後回 (S1)・右視床・左角回などであり、侵害受容や体性感覚のプロセシングと関連の深い部位であった。特に、1ヵ月あたりの片頭痛発作回数が高い患者ほど、右縁状回・右腹側前頭前部皮質・右島皮質前部・中脳の楔状核 (Nucleus cuneiformis)・視床下部における相関性が高かった。一方、発作頻度の高い片頭痛患者では、PAGと背内側前頭前部皮質・帯状回前部・扁桃体・視床内側部との機能的結合性は逆に低下していた。発作中にアロディニアを認める患者では、背外側前頭前部皮質・帯状回前部・島皮質前部などとの間の機能的結合性が、アロディニアを認めない患者に比較して有意に低下していた。

【結論】

片頭痛患者では、PAGと侵害受容や体性感覚のプロセシングに関連する脳の様々な部位との機能的結合性が、健常人と比較して変化しており、発作頻度や発作時のアロディニアの有無でパターンが異なることも明らかとなった。片頭痛の病態に、下行性侵害受容調節系の機能異常が関与することを支持する結果と考えられる。また、視床下部とPAGの機能的結合性にも変化が生じているというデータは、ストレスや不安などの気分障害で片頭痛病態が悪化する現象との関連性を示唆している。しかし、本研究で明らかにされたPAGと脳各部位の結合性の変化が、片頭痛に特異的な現象であるのか、あるいは慢性疼痛の結果として起きているにすぎないのかについてさらなる検討が必要と思われる。