群発頭痛における三叉神経侵害受容の片側性中枢性促通

Holle D, et al. Lateralized central facilitation of trigeminal nociception in cluster headache. Neurology 2012;78:985-992.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

群発頭痛の最も重要な臨床学的な特徴は、頭痛や自律神経症状が片側性に起こることである。 群発頭痛患者の三叉神経系感覚障害の異常を調べた研究はこれまでにも報告されているが、一貫した結果が得られていないのが現状である。本研究では、反復性群発頭痛 (eCH)および慢性群発頭痛 (cCH)患者を対象にして、群発期と発作間歇期の三叉神経系侵害受容プロセシング異常の有無を検討している。

【方法・結果】

対象は、eCH患者46名 (群発期18名・発作間歇期28名)とcCH患者20名であり、健常対照者30名とデータ比較を行った。診断はICHD-IIに準拠して行われた。侵害受容性瞬目反射 (nociceptive blink reflex: nBR)では、上眼窩神経を0.2 mAずつ電流量を増減して刺激を行って誘発電位を記録した。疼痛関連誘発電位 (pain-related evoked potential: PREP)は、記録電極をCzに、耳朶にリファレンスをそれぞれ設置した。nBRにおいては、潜時比 (頭痛側の潜時/非頭痛側の潜時)は、健常者に比較して群発期にあるeCHで最も小さくなっており、cCHと発作間歇期にあるeCHでも有意に低下していた。一方、nBRの程度をAUC (area under the curve)比 (頭痛側のAUC/非頭痛側のAUC)で比較すると、群発期にあるeCHでのみ健常者に比べて有意に高値を示していた。また、群発期にあるeCHの非頭痛側の潜時は、健常者に比較して有意に延長していた。PREPにおいては、cCHでN2潜時比 (頭痛側のN2潜時/非頭痛側のN2潜時)が、健常者に比較して有意に低下していた。
また、上眼窩神経刺激による疼痛閾値やPREPのN2およびP2潜時とピークからピークへの振幅(peak-to peak amplitude: PPA)については各群間で有意差を認めなかった。

【結論】

本研究の結果は、群発頭痛の頭痛側において三叉神経系の侵害受容プロセシングが促進されていることを示している。しかも、群発期のみならず発作間歇期にも促通現象が認められることも明らかとなった。慢性的に認められる非対称性の三叉神経系侵害受容プロセシングの異常を明確に示したことに本研究の意義がある。nRBは主に脳幹レベルの異常を反映しているので、群発期のeCHでは脳幹レベルでの侵害受容促通現象が顕著であると解釈できる。一方、非頭痛側でのnBR潜時の延長は、下向性侵害受容抑制系の影響が反映されている可能性がある。また、より中枢のレベルの異常を反映するPREPの異常はcCHでのみ認められたが、これは慢性疼痛による神経可塑性変化を反映している可能性が高い。