慢性片頭痛に対する後頭神経刺激療法のランダム化臨床研究

Serra G, et al. Occipital nerve stimulation for chronic migraine: A randomized trial. Pain Physician 2012;15:245-253.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

慢性片頭痛 (chronic migraine: CM)はQOL障害が強く、薬物治療では充分な病勢のコントロールが困難な症例が多い。したがって、非薬物療法の併用によって病状を改善させる治療アプローチが探求されている。後頭神経刺激療法 (occipital nerve stimulation: ONS)は、元々後頭神経痛治療のために開発された手法であるが、慢性頭痛治療にも応用され、特に群発頭痛に対する有効性が明らかにされつつある。本研究では、CM患者を対象にONSの効果を検討している。

【方法・結果】

イタリアの1施設で施行された研究で、18歳以上で少なくとも2種類の治療薬によっても治療が奏功しなかったCM患者34名 (女性23名・男性11名: 年齢46+11歳)を対象とした。研究開始時にはいずれの対象者も予防治療を受けていなかった。また、全ての患者はICHD-IIのCMの診断基準を満たしたが、85%では急性期頭痛治療薬の薬物乱用状態にあった。ONSシステムを挿入後、15~30日以内に頭痛の発作回数あるいは強度が50%以下に低下した症例に対して、ランダム化比較試験を施行した。その時点での患者数は30名となっており、2群に分けられ、A群 (Arm A)では刺激電極をオンに、B群 (Arm B)ではオフに設定された。そして、4週間後に、A群はB群に、B群はA群へとクロスオーバーされた。患者は12ヵ月後まで経過観察され、頭痛のある日および頭痛強度に加えて、MIDASとSF-36のスコアによるQOL障害の評価が行われた。研究開始前の時点で、片頭痛がある日数は5.8 +1.6日/週で、高度およびとても高度な頭痛を呈していた者は全体の91%であった。研究開始後は、頭痛のある日と頭痛強度共にONSがオンになっていた群で、オフになっていた群に比較して有意な改善効果が認められた。MIDASスコアもONSによって有意な改善が得られた。なお、SF-36ではONSがオンになっていた群で改善傾向が示されたものの有意差には至らなかった。さらに、トリプタンやNSAIDsなどの急性期頭痛治療薬の使用量もONSによって有意に低下した。有害事象は5件確認され、2例で電極挿入部の感染が、3例で電極位置のずれ (dislocation)が認められた。

【結論】

ONSはCMに対する有望な治療法である可能性が示された。ONSの抗片頭痛効果の機序は不明であるが、C2~3領域の神経の刺激によっていわゆる”gate control”が生じて侵害受容に関わる神経線維の活動性が低下する可能性や、視床機能の調節作用が考えられている。単一施設で施行された比較的少数の患者を対象とした研究結果であるため、今後のさらなる検討が期待される。