前兆のない片頭痛の発作時における頭蓋内および頭蓋外動脈のMRA所見

Amin FM, et al. Magnetic resonance angiography of intracranial and extracranial arteries in patients with spontaneous migraine without aura: a cross-sectional study. Lancet Neurol 2013;12:454-461.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

前兆のない片頭痛 (MsA)の頭痛発作発現には、頭蓋外動脈の拡張が原因であるという仮説がある。しかし、血管収縮作用を欠く5-HT1F作動薬に片頭痛頓挫作用が証明されるなど、血管拡張が頭痛発現に関係しないことを支持する研究結果も報告されている。これまでも、片頭痛発作中にMRAを用いて血管径を計測した研究はあるが、一酸化窒素 (nitric xide: NO)ドナーであるglyceryl trinitrateやCGRPなどで誘発された発作がほとんどであり、自然発生の片頭痛発作とは異なる血管径変化を観察しているのではないかという批判がある。本研究は、自然発生の片頭痛発作 (MsA患者のみ)中のMRA所見を多数例で検討した報告である。

【方法・結果】

デンマーク国内において、18~60歳のMsA患者がインターネット広告やGostrup病院の頭痛外来を通じてエントリーされた。患者は、発作発現1時間以内に研究スタッフに電話で連絡をとった後に来院し、3テスラMRA撮影を受けた。撮影後に、スマトリプタン6 mg皮下注射で加療された。スマトリプタン投与の30分後に再度MRA撮影を行った。さらに、後日頭痛がなく、急性期頭痛薬の服用をしていない時に3度目の撮影を行った。撮影中は、呼気中のCO2濃度のモニターが行われた。内頚動脈・中大脳動脈起始部・脳底動脈・浅側頭動脈・中硬膜動脈・外頸動脈にROIを設定し、血管周囲長の測定を行った。78名の患者がエントリーされ、そのうち19名の患者が発作中にMRA撮影が可能であった。全員が女性で平均年齢、罹病期間、発作頻度の中央値はそれぞれ33歳、16年、3回/月であった。頭痛発作発生からMRA撮影までの時間は、中央値が5時間45分 (15分~21時間)であった。頭痛間歇期の測定では、血管周囲長に左右差は認められなかった。頭痛発作中に、両側中大脳動脈起始部および内頚動脈海綿部 (ICAcavernous)と頭痛側の内頚動脈大脳部 (ICAcerebral)の周囲長は、発作間歇期に比較して増加していた。また、発作6時間以内とそれ以降に撮影された患者で比較したところ血管周囲長に有意差は認めなかった。発作中の左右差を比較すると、頭痛側の中大脳動脈起始部・内頚動脈海綿部 (ICAcavernous)・内頚動脈大脳部 (ICAcerebral)が対側に比較して有意に長かった。一方、外頸動脈系のいずれの部位においても、発作時と間歇期および発作時の左右の比較を行っても、有意差は確認されなかった。スマトリプタン投与後の血管周囲長の変化に関しては、両側の外頸動脈系の全ての測定部位と内頚動脈海綿部 (ICAcavernous)で有意な低下が認められ、脳底動脈では軽度の低下が認められた。一方、呼気中のCO2濃度には明らかな変化が認められなかった。

【結論】

本研究の結果は、外頸動脈拡張が片頭痛発作発現に関与するという仮説を支持しないものであった。内頚動脈系の血管拡張は頭痛の原因ではなく、三叉神経の活性化による副交感神経活動上昇の結果ではないかとも解釈できるが、内頚動脈海綿部 (ICAcavernous)の血管周囲長変化については、頭痛時に増加し、スマトリプタンによって低下していることから、頭痛発現に寄与している可能性は否定できない。一方、血管径の変化がなくても、血管周囲の三叉神経系に感作が生じていれば、正常な血管拍動も拍動性の痛みとして感じられるという考え方も可能である。したがって、本データは片頭痛発作発現には三叉神経系の感作が重要であるという考え方を支持する結果とも解釈できる。