なぜストレスによって頭痛は増悪するのか?―視床下部と三叉神経脊髄路核との連絡線維とその機能

Robert C, et al. Paraventricular hypothalamic regulation of trigeminovascular mechanisms involved in headaches. J Neurosci 2013;33:8827-8840.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

群発頭痛を始めとした三叉神経自律神経頭痛では、機能画像やMRIのvoxel-morphometryによって視床下部の異常が認められている。片頭痛においても、前駆症状として食欲異常が認められたり、ストレスが発作の引き金になったりといった視床下部異常を濃厚に疑わせる現象が観察される。視床下部と三叉神経脊髄路核との線維連絡に関しては、三叉神経から視床下部に直接投射しているtrigeminohypothalamic tractの存在が既に確認されている。本研究では、視床下部から下行性に三叉神経脊髄路に投射する線維の存在を組織学的に探索し、さらに電気生理学的手法で詳細な機能解析を行っている。

【方法・結果】

Sprague-Dawleyラットを対象にして、まずは三叉神経脊髄路核尾側亜核 (trigeminal nucleus caudalis: TNC)にガラスピペットを用いて逆行性トレーサーであるFluorogold (FG)を局所投与した。同時に三叉神経領域に加えた触覚刺激と侵害性刺激 (pinching)に反応するTNCニューロンを同定し、それらのニューロンに陽性直流電流を通電して、72時間後に組織固定を行って切片を作成した。また、他のラットにはグラスピペットを用いて視床下部室傍核に順行性トレーサーであるビオチンデキストラン (BD)を局所注入し、その後に陽性直流電流を通電し、1週間後に組織切片を作成した。FGは抗FG抗体を用いた後に、HRP標識抗ビオチン抗体を二次抗体として使用してDABで発色させた。BDはHRP標識抗ビオチン抗体を作用させたのちにDABで発色させた。TNCに注入したFGは、主として室傍核の小型細胞部 (parvicellular aspect)の背内側・腹側・後部に集積が認められた。同時に、視床下部外側やA11にもわずかな集積が認められた。一方、BDはTNCの中でも尾側部とC1/2のレベルに集積が認められ、しかもlamina Iとlamina II外側部に限局していた。また、TNC以外の部位としては、上唾液核・中脳水道周囲灰白質・青斑核・結合腕傍核に集積が確認された。続いて、硬膜Aδ線維およびC線維電気刺激で誘発されるTNCニューロンの電気活動にワインドアップ現象を誘導するモデルを作成した。その際に、室傍核にGABAA作動薬であるmucimolを注入すると背景電気活動とワインドアップ現象の両者が抑制され、逆にGABAA阻害薬であるgabazineを注入したところワインドアップの増強が確認された。ニューロペプチドpituitary adenylate cyclase activating peptide (PACAP)38を視床下部に局所投与したところ、TNCニューロンの背景電気活動の増強が認められた。一方、PACAP阻害薬PACAP6-38を投与するとTNCニューロンの背景電気活動と硬膜Aδ線維およびC線維電気刺激誘発性ワインドアップ現象の両者が抑制をうけた。ナラトリプタンの局所注入でもPACAP6-38と同様の効果が得られた。さらにラットを不安定な台上に乗せて急性ストレスを負荷した。すると、ラットではストレスを受けたことを示す血漿コルチゾンの上昇が認められたが、それと同時にmucimolによるGABAA受容体を介したTNCニューロン電気活動の抑制作用の減弱が認められた。

【結論】

本研究によって、視床下部の室傍核からTNCへの下行性線維の存在が明らかとなった。TNCへの投射は、三叉神経A・・C線維が伝える痛覚シグナルの二次ニューロンへの伝達を調節することも実証された。その機能は、GABA・セトロニン・PACAPなどによって影響を受け、さらにGABAによる痛覚シグナル伝達の抑制作用が急性ストレスによって減弱することも示された。今回明らかとなった視床下部からの下行線維は、ストレスによって頭痛が増悪するメカニズムに深く関連していると考えられる。