皮膚アロディニアは片頭痛慢性化の重要な予知因子である。

Louter MA, et al. Cutaneous allodynia as a predictor of migraine chronification. Brain 2013. Doi:10.1093/brain/awt251.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

皮膚アロディニア (cutaneous allodynia: CA)は、触覚など通常は痛みとして感じられない刺激が痛みとして感知される現象であり、臨床的には中枢性感作が成立したことを示す徴候として重視されている。片頭痛患者の50~80%にCAが認められると報告されている。また、頭頸部にCAが認められる場合は三叉神経脊髄路核レベルで、上肢などの頭頸部以外の部位でCAが観察された場合は視床レベルでそれぞれ感作が成立したと考えられている。これまで片頭痛患者のCA発生に関連する因子が検討されたり、慢性片頭痛ではCAの程度が強いといったデータは既に報告されており、CAが片頭痛の病態にとって重要な徴候であることは多くの研究結果によって支持されている。本研究は、縦断的な解析によってCAが片頭痛の慢性化に寄与しているかを検討している。

【方法・結果】

オランダでインターネットを通じて片頭痛患者を集めるLUMINAプロジェクトから選択された患者を対象としている。片頭痛の診断は、ICHD-IIに従って作成されたアンケートに照らし合わせて行われたが、このアンケートの診断特異度は0.95であることが示されている。最初に3029名の片頭痛患者 (年齢18~74歳)が集められ、さらにHospital Anxiety and DepressionスケールやCenter for Epidemiological Studies Depressionスケールなどから構成されるうつに関する評価を行えたのは88.9%に相当する2692名であった。この中で、Allodynia Symptom ChecklistによるCAの評価が施行できた者は2331名 (前兆のない片頭痛は1423名)であった。その結果、片頭痛患者にCAが生じやすい因子としては、女性、低年齢発症、長い病期、発作高頻度、予防薬の使用、うつが挙げられた。多変量ロジスティック回帰分析によって算出されたCA発生に関するオッズ比は、女性2.98 (95%信頼区間2.33~3.82)、低年齢発症0.98/年 (95%信頼区間0.97~0.99)、長い病期1.02/年 (95%信頼区間1.01~1.03)、発作高頻度 (例: 年間54回を超える場合は2回以下の場合に比較して1.88 [95%信頼区間1.69~4.92])、うつ1.52 (95%信頼区間1.26~1.84)であった。さらに、これらの対象患者のうち1992名に関しては縦断的に必要なデータが収集でき、頭痛頻度増加に寄与する因子の解析が行われた。平均追跡期間は93 ± 30週であった。その結果、追跡データ収集時の片頭痛のある日数を規定する因子として、CAがうつと共に最も重要であることが明らかとなった (p < 0.0001)。その他、低年齢発症 (p = 0.03)、前兆のない片頭痛 (p = 0.008)、ベースラインでの頭痛のある日数 (例: 年間54回を超える場合は2回以下の場合に比較して3.50 [95%信頼区間3.00~4.08])の寄与も確認された。また、ベースラインと追跡データ収集時の間での片頭痛を認めた日数増加に最も寄与した因子はCAとベースラインの片頭痛を認めた日数 (p < 0.001)であり、うつ (p = 0.001)と片頭痛発作持続時間 (p = 0.01)がそれに続いた。

【結論】

本研究は、CAが片頭痛の慢性化に寄与する重要な因子であることを縦断的解析によって初めて実証した点で非常に重要である。また、片頭痛慢性化には、うつやベースラインでの片頭痛日数も重要な役割を果たすことが確認された。CAは三叉神経血管系の活性化を示す現象であるが、頻回の三叉神経血管系活性化が、疼痛調節系の変調や、さらには感覚系ニューロンの障害や損傷を引き起こすことで片頭痛慢性化に寄与ものと推察される。しかし、そのようなカスケードが実際に片頭痛患者の神経系で引き起こされているのか実証するのは困難と思われ、今後の研究手法の進歩が期待される。