片頭痛急性期治療におけるバルプロ酸・メトクロプラミド・ケトロラク静注薬の薬効比較

Friedman BW, et al. Randomized trial of IV valproate vs metoclopramide vs ketorolac for acute migraine. Neurology 2014;82:976-983.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

米国では年間100万人の患者が片頭痛発作のために救急科を受診している。これまで発表されたデータによると、救急科で加療された患者の中で、受診後24時間にわたり頭痛消失を認めたものはわずか25%にとどまっている。米国では、バルプロ酸とNSAIDであるケトロラク (ketorolac)の注射薬があり、片頭痛急性期治療に用いられることがある。ケトロラクはメトクロプラミドと並び片頭痛急性期治療静注薬としての地位が確立しているが、バルプロ酸静注の片頭痛に対する有効性は報告によって異なり、一定の評価が得られていないのが現状である。本研究は、片頭痛発作に対するバルプロ酸・メトクロプラミド・ケトロラクの薬効を比較したランダム化二重盲検試験である。

【方法・結果】

本研究は、ニューヨークのMontefiore Medical Centerの救急部において2010年10月から30ヶ月にわたり行われた。この期間に、3288名の急性頭痛を主訴に受診した患者がいたが、その中でICHD-2に従って片頭痛と診断され、本研究参加に同意が得られた患者は330名であった。使用された薬剤はケトロラク30 mg ・バルプロ酸1 g・メトクロプラミド10 mgの注射薬であったが、それらの薬剤は薬剤師によって同じ外見の10 ml容量のバイアルに予め入れ替えられ、見分けがつかないような形で使用された。対象患者は、110名ずつの3グループにランダムに割り付けられ、試験薬剤は50 mlの生食バッグに混注された後に15分間かけて点滴静注された。一次評価項目は1時間以内の頭痛改善 (VASで1~10で評価)であったが、バルプロ酸投与群で2.8 (95%信頼区間: 2.3~3.3)、メトクロプラミド投与群で4.7 (95%信頼区間: 4.2~5.2)、ケトロラク投与群で3.9 (95%信頼区間: 3.3~4.5)とそれぞれの改善を示した。群間比較では、メトクロプラミドはバルプロ酸よりかなり優れており (-1.9 [95%信頼区間: -2.8, -1.1])、ケトロラクよりわずかに優れていた (-1.1 [95%信頼区間: -0.1, 1.7])。主な二次評価項目には①「次に同じ目的で来院した時に同じ薬で治療されたい」と思う患者の割合、②レスキュー薬が必要であった患者の割合、③24時間後も頭痛が消失していた患者の割合、が設定されていた。このうち、①と②に関してはメトクロプラミドが最も優れており、③ではケトロラクが優れていた。しかし、②に関しては最も優れていたメトクロプラミド投与群でも33%がレスキュー薬を必要とし、バルプロ酸に至っては69%の患者が必要であった。また、③に関してはケトロラク投与群でも16%にとどまり、バルプロ酸ではわずか4%であった。一方、有害事象発現率はバルプロ酸、メトクロプラミド、ケトロラクでそれぞれ23%、22%、30%であった。めまい・上部消化管症状・不穏・倦怠感などが認められたが、メトクロプラミドではアカシジア発現を含む重度の不穏が6%と他剤に比較して多く認められた。

【結論】

今回検討された薬剤の中ではメトクロプラミドが最も優れていた。また、バルプロ酸は急性期治療薬としては余り有効でないことが明らかとなった。また、メトクロプラミド静注を用いる際にはアカシジアなどの不穏症状に注意が必要と考えられた。

【本研究に対するコメント】

日本では用いられることのないバルプロ酸やケトロラクの静注薬に関する研究で、3つの薬剤を直接比較した点でも重要な論文であると評価できる。我々日本人には、バルプロ酸は予防薬としては有用であるが急性期治療には不適という考え方が根付いているが、米国では急性期治療薬として広く使われているようで、筆頭著者のFriedman先生もpodcastのインタビューの中で「今回の (バルプロ酸に関する)結果には驚いたというよりはがっかりさせられた」と述べている (http://www.aan.com/rss/?event=feed&channel=1 [2014年3月18日号])。この研究の結果を受けてバルプロ酸静注は今後使用すべきでないとコメントしている。また、本研究で使われた薬剤よりはスマトリプタンの静注やその他の経口トリプタンを用いた方が自然なのではないかという疑問が浮かぶ。日本との医療事情の違いが関係しているものと推察される。また、本研究の結果は全体的に成績が不良な印象を受ける。その理由としては、重症例が多く含まれていた可能性、今回の対象者では予防薬が投与されている率が低いことなどが考えられる。