片頭痛間欠期における視床下部と自律神経機能プロセシングに関わる脳部位との機能的結合性

Moulton EA, et al. Altered hypothalamic functional connectivity with autonomic circuits and the locus ceruleus in migraine. PLoS ONE 9(4): e95508. doi:10.1371/journal.pone.0095508

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛発作に際して、結膜充血・流涙・鼻閉・鼻漏などの自律神経症状が認められることがある。視床下部は、交感・副交感神経機能を制御しながら、食欲・日内リズム・疼痛に対する自律神経応答などの調節に深く関与していることが知られている。また、片頭痛では発作に先行して食欲変化が出現したり、片頭痛発作時に視床下部の活性化が起きていることが機能画像検査で明らかにされているなど、視床下部が片頭痛病態で重要な役割を果たしていることはよく知られている。一方で、片頭痛患者において、視床下部が自律神経系にいかなる機能的影響を及ぼしているのかという点に注目した研究はいまだ少ないのが現状である。近年、機能的MRI (functional MRI: fMRI)によって脳各部位の機能的結合性を解析する手法が脚光を浴びており、変性疾患や脱髄性疾患を含めて様々な神経疾患の病態解析に応用されている。本研究では、片頭痛発作間欠期での視床下部と自律神経機能プロセシングに関連する脳各部位との機能的結合性が検討されている。

【方法・結果】

ICHD-2の前兆のない片頭痛の診断基準を満たす12名の患者 (女性9名、男性3名、平均年齢31.7 + 7.6歳)と性別と年齢をほぼ合致させた12名の健常者 (女性8名、男性4名、平均年齢31.7 + 7.2歳)からなる対照群が解析対象となった。なお、本研究に参加した片頭痛患者では予防薬が使用されておらず、検査の72時間以内に発作がないことが確認されている。3テスラMRIを用いて撮像が行われ、被験者は検査中開眼覚醒状態に保たれた。片頭痛患者では、対照者に比較して、視床下部と交感・副交感神経機能のプロセシングに関与する複数の脳部位との結合性が高いことが明らかとなった。具体的な解剖学的構造として、副交感神経機能のプロセシングに関与する部位としては側頭極・上側頭回・小脳第VおよびVI小葉が、交感神経機能のプロセシングに関与する部位としては海馬傍回と小脳第IおよびII脚が、両者共通のプロセシングに関与する部位としては青斑核と尾状核がそれぞれ同定された。逆に、片頭痛患者では、対照群に比較して、視床下部と中心前回・前頭極・傍帯状回 (paracingulate gyrus)・上前頭回・紡錘状回・舌状回との結合性が低下していた。

【結論】

本研究は、片頭痛発作間欠期において視床下部と自律神経機能プロセシングに関係した脳部位との機能的結合性が上昇していることを初めて指摘した。片頭痛発作時に自律神経症状が認められることは稀ならずあるが、本研究の所見は片頭痛発作と自律神経症状発現との関連性を考える上で重要なデータと考えられる。視床下部―海馬―小脳を結ぶ経路は視床下部―小脳結合 (hypothalamo-cerebellar connection)と呼ばれ、不安や不快な刺激によって引き起こされる交感神経性反応の発現に関連していることが知られている。また、側頭極や上側頭回は副交感神経機能とも関連が深いが、片頭痛で認められるにおいや音に対する過敏症状の出現にも関係している可能性がある。

【本研究に対するコメント】

頭痛疾患と自律神経系との機能的結合に関しては、群発頭痛における三叉神経脊髄路核―上唾液核という脳幹レベルでの結合が有名である。しかし、本研究における機能的結合性解析によって、視床下部を中心とした自律神経機能プロセシング機能に関与する様々な部位との結合性が片頭痛間欠期で変化していることが明らかになったことから、頭痛疾患と自律神経機能異常の関わりを間脳・大脳レベルでも考慮する必要が出てきたと言える。さらに片頭痛は間欠期においても中枢神経機能異常が存在しているという疾患概念を支持する研究結果とも考えられる。一方、片頭痛患者で視床下部との機能的結合性が低下している部位も明らかにされたが、その片頭痛病態における意義についてはさらなる検討が必要である。