抗CGRP抗体LY2951742の片頭痛予防効果を検討した第2相臨床試験の結果

Dodick DW, et al. Safety and efficacy of LY2951742, a monoclonal antibody to calcitonin gene-related peptide, for the prevention of migraine: a phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled study. Lancet Neurol 2014;13:885-892.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

WHOのGlobal Burden of Diseaseの調査によれば、片頭痛は世界で第3番目に有病率の高い疾患であり、疾患がもたらす障害の大きさについても第7番目にランクされている。片頭痛は慢性疾患であるため予防療法が重要であるが、これに関しては主としてカルシウム拮抗薬や抗てんかん薬などの非特異的な治療ターゲットを有する薬剤を用いて行われているのが現状である。片頭痛発生には三叉神経血管系の活性化が関与するが、その結果として三叉神経終末からカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)が放出される。また、片頭痛患者にCGRPを投与すると発作そのものが誘発されることからも、CGRPは片頭痛発生に重要な働きをしていると思われる。それを踏まえて、CGRP受容体拮抗薬が開発されたが、肝障害などの副作用のために未だ臨床応用に至っていない。それとは別個に、遺伝子組み換え技術によってヒト化された抗CGRPモノクローナル抗体が片頭痛予防治療として開発中であった。LY2951742はIC50 (注: カプサイシン刺激後の皮膚血流を指標)が30 pMと非常に低く、第1相臨床試験によって人体への安全性がある程度確立されている。本論文は、米国の35施設で施行された同薬の第2相臨床試験の結果報告である。

【方法・結果】

本臨床試験は2012年7月~2013年9月まで行われた多施設二重盲検試験で、スクリーニング期間 (既存の予防薬の中止)とベースライン期間 (片頭痛発作頻度の測定)を経て、12週間の試験薬投与期間と12週間の忍容性評価期間が設定された。対象は、18~65歳のICHD-2の診断基準を満たし、月に4~14日間片頭痛を認める患者であり、LY2951742 (150 mg)あるいはプラセボを2週間ごとに12週間皮下注される群に1:1でランダムに割り付けられた。一次評価項目は、試験薬投与期間の第9~12週に片頭痛を認めた日数のベースラインからの変化に設定された。二次評価項目は、同期間における頭痛を認めた日数のベースラインからの変化、片頭痛あるいは片頭痛の疑いに合致する頭痛を認めた日数のベースラインからの変化、片頭痛発作頻度 (1ヶ月間の発作回数)のベースラインからの変化、治療反応性の割合 (同期間における片頭痛を認めた日数がベースラインの50%未満になった患者の割合)とした。482名の患者がスクリーニングされ、最終的にLY2951742投与群107名、プラセボ投与群110名が評価対象となった。男女比や年齢に群間差はなく、各評価項目のベースライン値も両群間で有意差を認めなかった。一次評価項目に関しては、LY2951742投与群で-4.1日 (SD 3.1, 62.5%減少)に対してプラセボ群-3.0日 (SD 3.0, 42.3%減少)であり、有意に (-1.2 [SE: 0.41, 90% CI -1.9~-0.6], p = 0.0030)前者で減少効果が認められた。さらに、全ての二次評価項目においてもLY2951742投与群が良好な結果を示しており、特にベースラインからの片頭痛発作頻度 (1ヶ月間)の減少効果にすぐれていた (-0.8 [SE: 0.29, 90% CI -1.3~-0.3], p = 0.0051)。また、片頭痛発作を認めた日がベースラインの75%未満になった者 (49% vs. 27%)や完全に発作を認めなくなった者 (32% vs. 17%)の割合もLY2951742投与群で多かった。有害事象の報告は両群でほぼ同数であった (LY2951742投与群72%, プラセボ投与群67%)。上気道感染、ウイルス感染、注射部の疼痛の頻度が高かったが、重篤な有害事象は認められなかった。また、LY2951742に対する中和抗体はベースラインで8名に、投与終了後に20名にそれぞれ検出されたが、薬効との有意な関連性は確認されなかった。

【結論】

本論文は、抗CGRP抗体投与の片頭痛予防効果を初めて示した臨床試験の報告である。CGRPが片頭痛病態で中心的役割を果たしていることを支持する臨床的知見を提供した点でも非常に意義深いと評価できる。さらに、抗体は血液脳関門を容易には通過しないので、片頭痛発生にはCGRPの末梢 (血液脳関門外)での作用が重要であることを強く示唆している (ただし、片頭痛発作時には血液脳関門の透過性が亢進していることを示した研究もあるため、この点は慎重に判断すべきともDiscussionでは記載されている)。今後は、より多数を長期間フォローアップした第3相試験の実施が望まれる。

【コメント】

抗体を用いた治療は、神経内科領域でも多発性硬化症や自己免疫性脳炎などに応用されており、新しい治療アプローチとして脚光を浴びている。それらの疾患で用いられている抗体と今回の抗CGRP抗体の大きな違いは、前者が免疫機能に大きな影響を与えるために、時として進行性多巣性白質脳症 (PML)などの重篤な合併症を起こすのに対して、後者では免疫系への影響はあったとしても少ない点が挙げられる。ただし、CGRPは血管拡張による微小循環制御など非常に重要な役割を担っていることから、長期投与の安全性に関しては慎重に評価していく必要があると思われる。