多発性硬化症治療薬ダルファンプリジンによる三叉神経痛の誘発

Birnbaum G, et al. Dalfampridine may activate latent trigeminal neuralgia in patients with multiple sclerosis. Neurology 2014;83:1610-1612.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

多発性硬化症 (multiple sclerosis: MS)に三叉神経痛が認められることは、良く知られておりその原因は神経根刺入部近傍を始めとする脳幹髄内における脱髄が原因と考えられている。ダルファンプリジン(dalfampridine)は電位依存性カリウムチャネルのブロッカーであり、脱髄巣における活動電位の伝導を改善させることでMS症状を緩和させると考えられている。しかし、その一方で三叉神経痛の症状を悪化させる可能性も考えられる。本研究では、71名のMS患者にダルファンプリジンを用いた際に、三叉神経痛の発生がどの程度認められたかを検討した。

【方法・結果】

米国ミネアポリス神経内科クリニックにおいて71名のMS患者が歩行能力改善を目的にダルファンプリジンを投与された。対象となった患者は、25フィートの歩行に8~45秒かかるレベルの歩行障害を呈していた。投与期間は1~2ヵ月であり、1例では痙攣発作のために中止された。71名中5名は三叉神経機能障害の既往を有していた。そのうち3名では一側性の三叉神経痛が、2名には一過性の顔面感覚障害がそれぞれ認められていた。3名の三叉神経痛の患者は、脳幹に責任病巣を認め、カルバマゼピンやプレガバリン、あるいはステロイドで加療され症状は消失していた。しかし、ダルファンプリジン投与開始1ヵ月以内に、これらの患者では三叉神経痛が再発した。また、顔面感覚障害のみ呈していた既往のある患者の1名ではダンファンプリジン投与18ヵ月で重度の顔面痛が出現した。これらの患者では、ダルファンプリジンが直ちに中止された。その結果、顔面感覚障害のみの既往を有する1名では症状は完全に軽快したが、残りの患者では以前に三叉神経痛治療に用いた薬剤を以前より高用量使用することでコントロールが得られた。特に1例では症状が重度であり、最終的に三叉神経根切断術が施行された。

【結論・コメント】

三叉神経痛を含めた三叉神経機能障害の既往のある患者ではダルファンプリジンは慎重に使用すべきと考えられた。副作用発現のメカニズムは不明であるが、本論文ではダルファンプリジン投与によって神経伝導が改善した結果、軸索におけるエネルギー需要が高まったものの、脱髄巣ではミトコンドリア機能が低下しているためATP産生が充分行われず、さらにエネルギー不全の状況が増悪したためではないかと推論されている。ダルファンプリジンの治験は本邦でも施行中 (2014年11月現在)であるが、ダルファンプリジンの使用に際しては本論文の報告内容を考慮する必要があると考えられる。