トリプタンは三叉神経脊髄路核尾側亜核と大脳皮質との機能的結合性を遮断する

Kröger IL, et al. Triptan-induced disruption of trigemino-cortical connectivity. Neurology 2015;84-1-8.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

トリプタンの片頭痛に対する治療効果には、5-HT1D受容体を介した三叉神経終末からの神経ペプチドの放出抑制や5-HT1Bを介した血管収縮作用が重要な役割を果たすと考えられている。これらの作用は血液脳関門の外で発揮される末梢性作用である。一方、トリプタンは三叉神経脊髄路核尾側亜核 (trigeminal nucleus caudalis: TNC)の5-HT1D受容体に作用して三叉神経一次ニューロンと二次ニューロンとの間の神経伝達を遮断したり、視床における痛覚情報の伝達を抑制する中枢性作用があることも知られている。片頭痛患者では、三叉神経系に侵害性刺激を与えた際のTNCの活性化の程度が、発作の直前に亢進していることがfunctional MRI (fMRI)の研究から明らかにされている (Stankewitz A, et al. J Neurosci 2011;31:1937-1943.)。本研究では、三叉神経系に侵害性刺激を加えた際のTNC・視床・大脳皮質各部位における活性化にトリプタンがどのような影響を与えるかを検討している。

【方法・結果】

対象は43名の健常者とした (データ収得が不十分でそのうち3名は解析の対象から除外された)。21名はスマトリプタン (6 mg皮下注)投与群に、22名はアセチルサリチル酸 (ASA, 500 mg静注)投与群に割り当てられ、さらに各群の中の半数は、プラセボとして生食が投与された。三叉神経領域への侵害性刺激は鼻腔にアンモニアガスを投与することで行った。さらに、鼻腔へのバラ香料の吹き付けによる嗅覚刺激と無臭の気体の吹き付けを行った。これらの刺激は被験者にランダムに行われた。各刺激後に、疼痛の程度の自己評価とfMRIのBOLD (blood oxygen level-dependent)信号の測定をTNC・赤核・小脳・視床・帯状回・扁桃体・前頭極・島皮質・基底核を含めた部位で施行した。各群のアンモニアガス投与による疼痛の程度に有意差は認められなかった (スマトリプタン群: 66.3 ± 1.9, スマトリプタン群対応生食投与群: 67.0 ± 2.1, ASA群: 61.7 ± 2.73, ASA群対応生食投与群: 62.1 ± 2.71 )。BOLD信号の変化に関しては、侵害性刺激によってTNC・視床・大脳皮質各部位で有意な上昇が認められた。スマトリプタン投与群では、TNCでのBOLD信号の上昇は生食群に比較して有意に亢進しており、視床でも有意差には至らないものの、スマトリプタン投与群で亢進傾向が確認された。さらに、スマトリプタン投与群とASA投与群の比較においては、TNCおよび視床でスマトリプタン群のBOLD信号上昇の程度が有意に高かった。一方、TNCとその他の測定部位におけるBOLD信号の同期性についても解析が行われた。生食投与群では侵害性刺激後のBOLD信号変化は、被殻・島皮質・赤核・帯状回中部・二次感覚野の各部位でTNCとのカップリングが認められ、機能的結合性の存在が示唆された。一方、機能的結合性に関して、生食投与群とスマトリプタン投与群で比較を行うと、スマトリプタン投与群で有意な低下が確認された。一方、ASA投与群と生食投与群との比較では、機能的結合性の有意差は確認されなかった。

【結論・コメント】

本研究で明らかにされたスマトリプタン投与後のTNCおよび視床における活性化の亢進は、スマトリプタンの片頭痛に対する効果を考えると一見矛盾したように感じられる。しかし、BOLD信号はニューロンの活動性を反映しているため、興奮性ニューロンの活動性も抑制性ニューロンの活動性も同じように信号変化を生じると考えられる。筆者らは、スマトリプタンによるTNCおよび視床での活性化亢進は抑制性ニューロンの活動を反映しており、結果として疼痛シグナル伝達を抑制する方向に作用する変化ではないかと推察している。一方、スマトリプタンはTNCと疼痛シグナルのプロセシングに関連する脳各部位との間の機能的結合性に変化を与えることが本研究によって明らかにされた。しかも、そのような変化はASAでは確認されず、トリプタンに特異的な効果であることが示唆された。したがって、トリプタンの片頭痛に対する効果は、末梢性の作用以外に、中枢における疼痛シグナルの伝達を遮断することで生じているのではないかと筆者らは推察している。本研究は、健常者を対象に行われた研究であるため、実際の片頭痛患者でも同じような変化が確認できるかは不明である。しかし、トリプタンには抗頭痛作用だけでなく、悪心や過敏症状などの随伴症状にも抑制効果があるため、「脳内のネットワークあるいはシステムの抑制」を介して薬効を発揮している可能性は十分考えられるのではないと思われる。