家族性片麻痺性片頭痛1型ノックインマウスにおけるカルシウム動態とシナプス形態異常

Eikermann-Haerter, K et al. Abnormal synaptic Ca2+ homeostasis and morphology in cortical neurons of familial hemiplegic migraine type 1 mutant mice. Ann Neurology 2015;78:193-210.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

家族性片麻痺性片頭痛1型 (FHM1)はP/Q型カルシウムチャネルであるCaV2.1の機能獲得型変異によって生じる常染色体優性遺伝を示す片麻痺性片頭痛である。チャネル機能亢進によって皮質拡延性抑制 (CSD)発生が促進されていると考えられており、臨床的には遷延性片麻痺や意識障害を呈し、頭部外傷によって発作が誘発されることもある。特にS218L変異は重症型であり、小脳失調の合併も観察される。既にS218Lノックインマウスの脳幹スライスを用いた研究によってシナプス前膜での細胞内カルシウム濃度の上昇やシナプス伝達強度亢進が実証されているが、本研究はin vivoの状態での大脳皮質のカルシウム動態やシナプス形態異常などを生体多光子顕微鏡によって詳細に検討している。

【方法・結果】

CACNA1AのS218Lノックインマウスと野生型マウスを対象とした。カルシウム濃度に反応して蛍光発光特性を変化させるタンパク質yellow cameleon (YC) 6.2をアデノ関連ウイルス (adeno-associated virus: AAV)ベクターを用いて大脳皮質ニューロンに発現させた。これによって、感染部位近傍のニューロンの形態が生体蛍光顕微鏡で観察可能であったが、対側大脳皮質では脳梁を横断する横断線維の軸索のみが観察された。これらの比較によって、通常では困難な軸索と樹状突起の生体における鑑別が可能となった。細胞内カルシウム濃度は、S218Lノックインマウスで上昇しており、特に軸索ボタン (axonal bouton: シナプス形成部)とシャフトにおいて顕著であった。野生型マウスでは、軸索ボタンと樹状突起スパインでカルシウム濃度が高く、シャフトの部分では低いという分画性が認められたが、ノックインマウスではそのような分画性は失われていた。CSD誘発時には、ノックインマウスの軸索と樹状突起ではカルシウム濃度上昇レベルとカルシウム上昇速度は共に野生型に比較して約50%亢進していた。また、CSDの伝播速度もノックインマウスで有意に上昇していた。一方、カルシウム濃度上昇の持続時間にはノックインマウスと野生型の間で有意差を認めなかった。カルシウムチャネルのゲーティングを抑制するtert-butyl dihydroquinone (BHQ)をノックインマウスに前投与したところ、CSD発生頻度は低下した。軸索と樹状突起の形態については、ノックインマウスでは軸索ボタンの径が大きく、シナプス活動性が高いとされるキノコ型の形態を呈する樹状突起スパインの比率が野生型に比較して高かった。CSD誘導後は野生型とノックインマウス共に、軸索ボタンの密度が上昇する一方で、径は減少するといった変化が認められた。一方、CSD発生時の血流変化はノックインマウスで乏血の程度が重度であり、ヘモグロビン酸素化が低下していた。

【結論・コメント】

本研究は、FHM1ノックインマウス大脳皮質での定常状態とCSD誘導時における細胞内カルシウム濃度変化と軸索および樹状突起の形態を初めて生体顕微鏡で明らかにした。カルシウムチャネルの機能獲得型変異から予想されたように細胞内カルシウムはノックインマウスで高かったが、シナプスの形態の異常も観察され、特にシナプス前膜側の軸索において細胞内カルシウム濃度上昇が顕著であったことも以前報告と合致する。さらに、CSD後の乏血とヘモグロビン酸素化の低下が野生型に比較してノックインマウスで顕著であったことも初めて明らかにされた知見である。本研究は、FHMの病態解明に重要なデータを提供したと評価できる。