片頭痛患者大脳皮質のグルタミン酸濃度

Zielman R, et al. Cortical glutamate in migraine. Brain 2017;140:1859-1871.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛は脳疾患であり、前兆は皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)によって生じる神経症候と考えられている。 CSD発生には興奮性アミノ酸であるグルタミン酸が重要な働きをすると考えられている。しかし、片頭痛患者大脳皮質のグルタミン酸動態に関する厳密なデータは少ない。 非侵襲的にグルタミン酸濃度を評価するには、MRスペクトロスコピー (MRS)が施行されるが、従来の方法ではグルタミンとの分離が不十分であるという問題があった。 本研究では7テスラの高磁場MRSを施行して、片頭痛患者の大脳皮質のグルタミン酸濃度を報告している。

【方法・結果】

対象はICHD-3betaの診断基準を満たした27名の前兆のある片頭痛 (MA)と36名の前兆のない片頭痛 (MO)患者、および27名の頭痛のない健常対照者とした。 片頭痛患者では過去6ヶ月間において月1回以上の発作を認め、慢性片頭痛と薬剤の使用過多による頭痛のないことを確認した。 MAでは50%以上の発作において前兆を認める患者に限定した。片頭痛発作間欠期は前回の発作から3日以上~次の発作の2日以前 (後方視的に決定)までの期間と定義した。 MRSと拡散強調スペクトロスコピー (DWS)は7テスラの高磁場で後頭葉を対象に施行された。 グルタミン酸とグルタミンを含む22の代謝物を検出するスペクトルフィッティングが行われ、得られた結果は2名の検者が評価し、スペクトルの分離不良があったり、アーチファクトが混入したデータは棄却された。 また、被験者はMIDAS、HIT-6とvisual sensitivity questionnaire (VSQ)による光感受性評価とPattern Glare Testによる視覚評価も行われた。MO患者では、27名が発作間欠期に、9名が発作直前期 (次回の発作まで2日以内)にそれぞれMRSを受けた。 MA患者では、23名が発作間欠期、4名が発作直前期であった。しかし、データの質の不良により最終的に、MO患者からは27個のMRSデータと23個のDWSデータが、MA患者からは23個のMRSデータと22個のDWSデータが、対照者からは24個のMRSデータと18個のDWSデータが得られた。 後頭葉皮質のグルタミン酸濃度は、対照者で6.40 ± 0.78 mM、MO (間欠期)は7.02 ± 0.50 mM、MA (間欠期)は6.77 ± 0.47 mMであり、対照者に比較して有意に (P = 0.047)MOで高値であった。 また、発作直前期のデータを合せると、MOでは7.07 ± 0.56 mMでありこれも対象者と比較して有意に (P = 0.004)高値を示した。ただし、発作間欠期と発作直前期ではグルタミン酸濃度の有意差は確認されなかった。 一方、ADCデータに関しては3群間で有意差はなかった。なお、MIDASとHIT-6のデータではMOとMA間に有意差は認められなかった。 VSQとPattern Glare Testに関しては対照者に比較して、MOとMA患者で視覚過敏性や視錯覚を認める頻度は高かったが、MOとMA間では有意差は認められなかった。

【結論・コメント】

本研究では、7テスラの高磁場MRS/DWSを施行することによってMO患者の後頭葉で健常対照者に比較してグルタミン酸濃度が有意に高いことが明らかとなった。 一方で、ADCに群間差はなかったため、細胞内外でのグルタミン酸の動きに変化は確認されなかった。MRSで観測されるグルタミン酸の大部分は細胞内に存在する分画だと考えられている。 ただし、細胞内に存在するグルタミン酸は神経伝達物質として機能するだけでなく、中間代謝物としてTCAサイクルを含むエネルギー代謝系に関与するものも含まれる。 本研究の結果は、片頭痛病態に興奮性アミノ酸であるグルタミン酸濃度の機能亢進が関わることを支持すると言える。 しかし、CSDがより確実に起きていると考えられるMAではグルタミン酸濃度の上昇は確認されなかったり、発作直前でグルタミン酸濃度上昇が生じていなかったりと、やや予想に反した結果とも考えられる。