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推奨
小児の片頭痛の急性期治療には,イブプロフェンとアセトアミノフェンが効果的な頭痛薬である.イブプロフェンは最良の鎮痛作用を示し,安全で効果的,経済的で最初に用いるべき小児の頭痛治療薬である.経鼻スマトリプタンは,他の方法で効果がないような小児の片頭痛発作には使用が考慮されるべき薬剤であるが,小児片頭痛患者の予防薬に関するエビデンスは未だ少ない
推奨のグレード
A~C  
 

 

背景・目的

小児の急性期片頭痛治療薬として,イブプロフェンとアセトアミノフェンが,すぐれた薬剤であるかを検討した.また,成人で使用されているトリプタン製剤の小児片頭痛における有効性,認容性の研究について検討した.さらに,小児片頭痛の予防治療薬にはどのような種類があり,どの程度の有効性かを検討した.


解説・エビデンス

1. イブプロフェンとアセトアミノフェンの有効性について(グレード A )
2件のランダム化比較試験があった.
 片頭痛発作のある 6 ~ 12 歳の小児において,イブプロフェン懸濁液 7.5mg/kg ,プラセボを経口投与し,二重盲検、ランダム化,プラセボ対照交差試験を行なった 1) .4段階のスケールを用いて頭痛の強度を測定した. 138 例登録して 84 例が治療を行い,頭痛日記を完成させた.イブプロフェン 45 例(平均年齢9歳,男女比 1.25 ).プラセボ 39 例(平均年齢 9.1 歳、男女比 1.6 ). 120 分後の累積反応者(重症,中等症が軽症,消失に改善)の割合は,イブプロフェン 76 %,プラセボ 53 %( P=0.006 )とイブプロフェンはプラセボに比較して有効,特に男児でイブプロフェン 84 %,プラセボ 43.4 % (P<0.0006 ) と顕著であった.4- 24 時間以内の頭痛の再発はイブプロフェン 18 %,プラセボ 36 %( P<0.06 ), 4 時間以内の頓服薬の必要性は,イブプロフェン 2 %,プラセボ 38 %( P<0.001 ) とイブプロフェンはプラセボに比較して低値であった.
 月に 2 回以上, 2 時間以上持続する片頭痛発作を起こしている小児 88 例,平均年齢 10.7 歳( 4.0~15.8 )で,アセトアミノフェン 15mg/kg ,イブプロフェン 10mg/kg ,プラセボを経口投与して,二重盲検,ランダム化,プラセボ対照交差試験を行なった 2) .それぞれの小児は 3 回の頭痛発作発症時に,自宅で検査薬を内服した. 5 段階の表情スケールまたは, 100mm 連続スケールを用いて頭痛の強度を内服前, 30 分後, 60 分後,以後は 1 時間毎に 5 時間,もしくは小児が眠ってしまうまで測定した.グレード 3 以上の頭痛が, 2 時間後に少なくとも2グレード以上の改善は,イブプロフェンはプラセボに比較して有効 (OR 2.9, 95% CI 1.0-8.1) ,アセトアミノフェンもやや弱いが有効 (OR 2.0, 95% CI 0.9-4.3) . 1 時間後の同様の頭痛強度の改善は,プラセボに比較してイブプロフェン (OR 3.4, 95% CI 1.2-10.2) ,アセトアミノフェン (OR 3.9, 95% CI 1.4-11.0) とアセトアミノフェンの効果は 2 時間後より 1 時間後の方が顕著であった.
 以上より,小児の片頭痛の急性期治療において,イブプロフェンまたはアセトアミノフェンは効果的で経済的で,最初に用いるべき小児の片頭痛治療薬である.イブプロフェンと比較するとアセトアミノフェンはわずかに早く効果が出現するが鎮痛作用はやや弱い.イブプロフェンは最良の鎮痛作用を示した.
イブプロフェンとアセトアミノフェンの使用量 3)
イブプロフェン:小児は体重当たりとし, 5mg/kg ,ただし成人の最高用量, 200mg/ 回, 600mg/ 日を超えないこと.
アセトアミノフェン: 10mg/kg ,ただし,成人の最高用量, 500mg/ 回, 1500mg/ 日を超えないこと.
 
2. トリプタンの有効性について(グレード B )
1 件のシステマティックレビュー 4) 、4つのランダム化二重盲検プラセボ対照試験と,4つのオープンラベル前方視的研究がみつかった.スマトリプタン 6 件(経口1,経鼻3,皮下注2),経口リザトリプタン1件,経口ゾルミトリプタン1件.
月に 2 回以上, 4 時間以上持続し, NSAID の効果が充分でない片頭痛発作のある8~ 17 歳の患者 83 例で,経鼻スマトリプタンは体重 20 ~ 39kg では 10mg , 40kg 以上では 20mg 使用した 5) .プライマリーエンドポイントは, 5 段階の表情スケールで,グレード 3 以上の頭痛が 2 時間後に, 2 グレード以上の改善,または眠ってしまい起きた時に頭痛が消失している時. 2 次エンドポイントは, 1,3,4 時間後の 2 グレード以上の改善, 1,2,3,4 時間後の完全な頭痛消失とした.プライマリーエンドポインに到達したのは,スマトリプタン (n=53/83,64%) ,プラセボ (n=32/83,39%) で約 2 倍スマトリプタンの方が多かった (p=0.003) .すでに 1 時間後の時点でもスマトリプタン (n=42/83,51%) ,プラセボ (n=24/83,29%) でスマトリプタンに改善例が多かった (p=0.014) .この差は Intent-to-treat 解析でも同様で 20mg の投与を受けた患者で明らかであった.最もよく見られて副作用は,スマトリプタン投与後の苦味で, 29%(n=26/90) が訴えた.経鼻スマトリプタンは, 8 歳以上の小児の片頭痛発作の治療に効果的である.
経口スマトリプタン 6) の効果は証明できなかった. 経口リザトリプタンは思春期に使用した結果,効果ははっきりしなかったが,許容された 7) .経口ゾルミトリプタン 8) の効果は証明できなかった.副作用は経口スマトリプタン,経口リザトリプタン,経口ゾルミトリプタンおよび経鼻スマトリプタンともわずかであった.
以上より,経鼻スマトリプタンは他の治療で効果がないような片頭痛発作では,小児においてもその効果が支持されたが,その他のトリプタン製剤の有効性は示されなかった.
6 歳から 11 歳の小児における,経鼻スマトリプタンの薬理動態についての文献が1つみつかった 9) .体重 30kg におけるクリアランス (CL/F) は 197 L/h ( 個体間変動 28%), 11 歳の小児における分布容積は 751 L( 個体間変動 43%) .容積は年齢に伴い増加し,クリアランスは体格に伴って増加した.吸収は複雑で,しばしば血漿中濃度は,早期の吸収期と速度に制限された遅れた吸収期の2つのピークをもった.小児おける経鼻スマトリプタンの使用を推奨する前に,安全性と有効性を確かめるためのさらなる検討が必要である.
トリプタンの使用量(内服薬の場合)
体重 40kg 以上, 12 歳以上の小児には,成人と同量のトリプタンを使用可能と考える. 25kg 以上 40kg 未満の小児には成人の半量が相応しく,わが国で発売されている 4 種のトリプタンとも,錠剤を 1/2 錠分割とし使用可能である.体重 25kg 未満の小児にも,錠剤を粉砕し使用可能と考えているが,粉砕した錠剤の保存中の安定性は確認されていない 3)
 
3. 小児の片頭痛予防薬について(グレード C )
小児片頭痛患者 250 人中 126 人( 50% : 3.9-18 歳)で予防的治療が行なわれており,最も多く使われていたのは,アミトリプチリン ( 年長者に多い ) とシプロヘプタジン ( 年少者に多い ) であった 10) . 6 ヶ月の経過観察中になんらかの改善があったのは,アミトリプチリン 89% ,シプロヘプタジン 83% であった.頭痛の回数が減少したのはそれぞれ 62% , 55% であった.
対照群のない症例集積研究で, 1 ヶ月に 3 回以上頭痛発作のある小児 279 例中, 192 例 (68.8%) がアミトリプチリン 1mg/kg/ 日で治療され (12.0 ± 3 歳,男女比 1:1.74) 有効性が示された 11) .アミトリプチリンは 1 日 1 回,初め 0.25mg/kg/ 日から開始し, 2 週間後に 0.25m/kg/ 日ずつ増量していった.プライマリーエンドポイントは, 4 ~ 6 ヶ月間に頭痛発作が 1 ヶ月あたり 2 回以下になること,平均頭痛頻度は 17.1 ± 10.1 日 / 月,平均頭痛強度は 6.84 ± 1.67(10 段階痛みスケール ) ,平均持続時間 11.5 ± 15.0 時間.予防的治療を開始して平均 67.3 ± 32.3 日後に, 84.2% の小児で何らかの改善が認められたが, 11.6% では変化がなかった.頭痛の頻度は 9.2 ± 10.0 日 / 月,平均頭痛強度は 5.1 ± 2.1(10 段階痛みスケール ) ,平均持続時間 6.3 ± 11.1 時間に減少した.副作用の報告は少なかった.長期フォロー (156 ~ 415 日 ) でも,改善は持続して認められた.
片頭痛小児 42 人( 7-16 歳)に,予防薬としてバルプロ酸( Divalproex Sodium ) 15mg/kg/day から 45mg/kg/day を投与し, 42 人中 34 人( 80.9 %)は頭痛頓挫薬を中止できた. 4 ヶ月の治療後,頭痛が 50 %減少したのは 78.5 %,頭痛が 75 %減少したのは 14.2 %で, 9.5 %では頭痛が消失した 12)
片頭痛小児 15 人( 9-17 歳)に,予防薬としてバルプロ酸 500mg/ 夕で開始し,血中濃度をみて 1000mg/ 日まで増量した. 10 段階の視覚アナログスケールによる頭痛の強さは,治療前 6.8 ± 1.8 が,治療終了時 0.7 ± 1.2 であった( P=0.000 ). 1 ヶ月の平均頭痛発作回数は,治療前 6 ± 4.2 が,終了時 0.8 ± 1.9 となった( P=0.002 ).頭痛持続時間は, 5.5 ± 3.9 時間が, 1.1 ± 2.5 時間であった( P=0.001 ).観察された副作用は,めまい感,嗜眠,食欲増進であったが,薬剤の中止の必要はなかった. 2 人で,バルプロ酸中止後頭痛発作が再燃し,治療が再開された.他の症例では,薬剤中止後 6 ヶ月間,頭痛はコントロールされていた 13)
これらの薬に関しては対照群のない症例集積研究のみで RCT 研究はみつからなかった.
コクランレビューでは propranolol, flunarizine はそれぞれたった1つのランダム化二重盲検プラセボ対照試験で頭痛の頻度について効果が認められた 14) . nimodipine, timolol, papaverine, pizotifen, trazodone, L-5-hydroxytryptophan (L-5HTP), clonidine, metoclopramide, domperidone は効果が認められなかった.
小児片頭痛患者の予防薬に関するエビデンスは未だ少なく,どの研究も症例数が少ない.今後,症例数を増やした RCT 研究が必要である.

 

参考文献のリスト

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検索式・参考にした
二次資料

Migraine &{drug therapy}&{child}OR{Adolescent} 963 件
&{acute}&{analgesics} 66 件
&{triptan} 30 件
&{prophylactic}NOT{acute} 58 件
検索 DB :  PubMed (04/10/27, Reference Manager より )

備考 小児に新しい薬を使用するときの心構え
薬の治験は,小児用に開発された薬以外は,成人のみを対象としているため,「小児への安全性は確立していない」と添付文書に記されている.しかし,ニューキノロンなど特別な薬以外は「小児に禁忌」という注意は見当たらない.トリプタンの添付文書にも「小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない)」との使用上の注意がある.小児は成人に比し,基礎疾患をもつものが少なく,薬剤に対するクリアランスもよい.従って,小児にもトリプタンを使用してよいと考える.