日本頭痛学会ニュースレター35号  (2019年 9月)

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  1. 日本頭痛学会理事 片山泰朗先生より、ご寄稿
  2. 第47回日本頭痛学会総会ご案内
  3. Headache Master School Japan 2019(HMSJ2019) in Matsuyama開催のご案内
  4. 頭痛医療を推進する患者と医療従事者の会(JPAC)ニュースレターが配信されました。
  5. 最近の頭痛研究トピックス(広報委員会から最新の論文をご紹介)

【1】日本頭痛学会理事 (総合東京病院神経内科、脳神経疾患センター長)

片山泰朗先生より、ご寄稿
11月の総会も近づいてご多忙のことと存じます。ここでは脳動脈解離をテーマとして取り上げたいと思います。まずは脳動脈解離の一症例を紹介したいと思います。症例は33歳、男性のドクターで約1ヶ月前から右後頭部を中心とする拍動性頭痛が出現し、鎮痛剤で様子を見ていたとのことでした。病院当直のある日、テレビを見ていたところ突然に回転性めまいと嘔気が出現し、改善しないため救急車を要請し、搬送・入院となりました。神経学的所見では、右Horner症候群、注視性方向眼振、右カーテン徴候、右上肢のBarre徴候陽性、右上肢の小脳失調、右顔面と左側の体幹・上下肢の温痛覚障害、嚥下困難、嗄声を認めました。入院時のCT、MRIからは脳梗塞の所見は明らかでありませんでしたが、頭痛およびWallenberg症候群を認め、頭部MRAにて右椎骨動脈にstring sign を認めたことから右椎骨動脈解離による脳梗塞と診断し、抗凝固療法および脳保護療法を開始しました。 第3病目で施行したMRIにて延髄右背外側に拡散強調像、T2強調画像、FLAIR画像で高信号を認め、また、第8病目に施行した脳血管撮影にてstring sign を認めました。めまい、構音障害、失調症状は改善しましたが、嚥下障害が残存したため、第27病目に回復期リハビリテーション病院へ転院となりました。本症例は30代の若い男性ドクターで病院当直中に発症し、自ら脳卒中を疑い救急車を要請した経緯及び典型的なWallenberg症候群を呈していたことから、印象的な症例でした。脳動脈解離はICHD-3β表2の第2部二次性頭痛の6.頭頸部血管障害による頭痛に分類されます。
脳動脈解離の頻度はおよそ10万人に2~3人と言われていましたが、近年の画像診断進歩に伴い脳動脈解離の報告は増加しています。特に若い世代においては重要で、本邦で行われた「若年世代の脳卒中の診断、治療、予防戦略に関する全国多施設共同研究」では、50歳以下の脳卒中の3.8%が脳動脈解離であり、これは51歳以上群の約9倍の頻度であったとしています。かって在籍した私共の施設のSCUの成績では連続1126例の虚血性脳卒中患者(年齢:70.4±12.8歳、性別:男性64%、女性36%)のうち24例(2.1%)が脳動脈解離でありました。
脳動脈解離の血管領域は70.8%で後方循環でありました。年齢は非脳動脈解離群が70.9±12.1歳であったのに対して脳動脈解離群は47.2±18.3歳と有意に若く、また頭痛発現頻度は前者が8.3%であったのに対して後者は79.2%と著しく多く認められました。また、頭痛の発現は両者とも後頭・後頸部で多く、非拍動性が多く、軽度頭痛のものが多く認められました(日本頭痛学会誌、38:1-6、2011)。脳動脈解離部位は欧米では、頭蓋外頸動脈解離がほとんどでありますが、本邦では、頭蓋内椎骨動脈の頻度が高く、大きく異なっています。本稿では脳動脈解離の一例を紹介し、脳動脈解離によって生ずる頭痛の頻度や特徴を私共の研究成績をもとに紹介させて頂きました。
後頭・後頸部痛のある患者では脳動脈解離も念頭において診断を進めることが重要であります。

【2】第47回日本頭痛学会総会ご案内

会長
丸木 雄一先生 (埼玉精神神経センター)
テーマ
-頭痛科学への新たな挑戦、 Narrative based medicineとともに-
会期
2019年11月15日(金)、16日(土)
会場
浦和ロイヤルパインズホテル

詳細につきましては、http://jhs47.umin.jpをご参照ください。
みなさまの奮ってご参加いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

【3】Headache Master School Japan 2019(HMSJ2019) in Matsuyama開催のご案内

実行委員長
藤田 仁志先生 (十全総合病院 脳神経外科部長)
開催日
2019年11月24日(日)
会場
リジェール松山

詳細につきましては、http://hmsj2019-2.umin.jp/index.htmlをご参照ください。
みなさまの奮ってのご参加を期待しております。

【4】頭痛医療を推進する患者と医療従事者の会(JPAC) のニュースレターが配信されました。

日本頭痛学会およびJPAC共催にて2019年7月14日に、仙台で開かれた頭痛解消のための市民公開講座が紹介されています。Headache Master School Japan 2019(HMSJ2019) in Sendaiに引き続き開催された市民公開講座では、100名以上の多数の参加者のもと、頭痛専門医、看護師や医療者と患者との勉強会、交流の様子がくわしく掲載されています。ぜひ、News & Topics http://www.jhsnet.net/pdf/JPAC_vol18.pdfご一読ください。

【5】最近の頭痛研究トピックス(広報委員会から最新の論文をご紹介)

CGRP受容体拮抗薬rimegepantによる片頭痛治療効果
Lipton RB, et al. Rimegepant, an oral calcitonin gene-related peptide receptor antagonist, for migraine. N Engl J Med 2019;381:142-149.
掲載日:2019/08/02

抗CGRP抗体Eptinezumabによる慢性片頭痛の予防効果
Dodick DW, et al. Eptinezumab for prevention of chronic migraine: A randomized phase 2b clinical trial. Cephalalgia 2019 Jun 24:333102419858355. doi: 10.1177/0333102419858355.
掲載日:2019/07/09

Lasmiditanの片頭痛急性期治療薬としての薬効と安全性を評価した第3相試験の結果
Goadsby PJ, et al. Phase 3 randomized, placebo-controlled, double-blind study of lasmiditan for acute treatment of migraine. Brain 2019 May 27. pii: awz134. doi: 10.1093/brain/awz134.
掲載日:2019/06/14

片頭痛における視床―大脳皮質ネットワーク動態の異常
Tu Y, et al. Abnormal thalamo-cortical network dynamics in migraine. Neurology 2019;92:e1-e11. doi: 10.1212/WNL.0000000000007607.
掲載日:2019/06/14

【日本頭痛学会 広報委員会】

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