片頭痛患者に認められる光過敏が色によって変化する神経機構の解明

Noseda R, et al. Migraine photophobia originating in cone-driven retinal pathways. Brain 2016, doi:10.1093/brain/aww119

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

光過敏は片頭痛患発作時の重要な随伴症状であり、発作間欠期においても一部の片頭痛患者で自覚されることがある。また、同じ光刺激でも色によって光過敏の起こり方が異なるのではないかということが以前より指摘されている。本研究は、片頭痛患者を対象にアンケートと電気生理学的検査を行い、さらにラットを用いた動物実験を併用することで、色によって光過敏に関連した神経活動がどのように影響を受けるかを解析している。

【方法・結果】

眼疾患のない69名の片頭痛患者を対象にした。そのうち、41名においては発作急性期に検査を施行し得た。患者を異なる色に曝露し、光の強度を上げていくと、白・琥珀・赤・青の場合は頭痛の強さは増強し、最大強度の100 cd/m2ではほぼ80%の患者が頭痛の増強を訴えた。しかし、緑に関しては頭痛増強を訴えたのは半数にとどまり、さらに予想外に20%の患者では減弱を認めた。緑の減弱作用は、頭痛が軽度あるいは中等度の際に認められた。片頭痛発作において中等度の頭痛強度を示した際に各色の曝露を行ったところ、赤および青で18-19%に、白および琥珀で15%に増強が見られたが、緑では5%未満にとどまった。また、頭痛範囲の拡大に関しては青・琥珀・赤では白・緑に比較して多く認められた。さらに、より客観的な評価のために、被験者の中で43名においては網膜電図 (ERG)が施行されている。明順応シングルフラッシュERGにおいては、緑によるb波の振幅は青と白に比較して有意に低値を示し、琥珀と赤と同等のレベルであった。また、明順応フリッカー錐体細胞ERGの解析においても緑は他の色に比較してb波振幅が低値であった。暗順応桿体細胞ERGでは、緑によるb波振幅は青・白に比較して低値であったが、琥珀・赤に比較して高値であった。以上のERGでの解析から、緑による光過敏誘発の弱さは、錐体細胞の反応性の低さと関連あるものと推測された。さらに、28名の片頭痛患者を対象に視覚誘発電位 (VEP)を行ったところ、P2振幅は青に比較して緑での刺激時に有意に小さいことが確認された。一方、N2振幅には両者間で有意差を認めなかった。本研究グループの以前の研究結果から、光覚シグナルは、硬膜由来の侵害性シグナルと視床の外側後核 (LP核)・後核 (Po核)・後内側腹側核 (VPM核)の一部のニューロンにおいて収束することが知られている (Nat Neurosci 2010;13:239-245.)。そこで、ラットを対象にして、暗い照明下で硬膜に機械的刺激を1回加えた後に、15分間暗所に静置後、1分間毎の暗―明―暗サイクルを白―青―緑―赤の順で4回繰り返し、各サイクルで明時に機械的刺激を行った。視床において電気活動が記録できたニューロンは97個であった。その内訳は、24個が硬膜機械刺激反応性で73個が非反応性であり、37個が光刺激反応性で60個が非反応性であった。被験ラットでは、青および白の光刺激を受けると硬膜への機械的シグナルによって誘発されるニューロンの電気活動は増強を示した。一方、緑ではそのような増強が認められなかった。なお、赤では視床ニューロンの活動変化自体が認められなかった。部位別に解析すると、LP核とPo核において光による修飾は見られたが、VPM核ではそのような現象を認めなかった。硬膜刺激感受性ニューロンにおいては、Po核よりもLP核に位置するニューロンで、青に対する反応が2~3倍高く、有意差が認められた。また、LP核における硬膜刺激感受性ニューロンは、すべての細胞が青に反応したのに比較して、半数が白に反応し、緑に反応したのは約1/3であった。

【結論・解釈】

本研究の結果は、緑は片頭痛患者にとって最も光過敏を起こしにくい色であることを示し、青が最も起こしやすく、白はその中間に位置することを示している。また、一般に明所で働く網膜細胞は錐体細胞であり、本研究で行ったERGの結果もプロトコール上錐体細胞の活動を反映すると考えられるため、光過敏発現には錐体細胞が重要な役割を果たすと考えられた。また、光過敏の発現は特にLP核とPo核に相当する視床ニューロンレベルでの硬膜由来機械的刺激によるシグナルと光覚シグナルの収束が重要であることも動物実験の結果から示されたといえる。さらに、ヒトでおこなったVEPの結果でP2振幅に緑と青による反応で有意差が認められたが、P2は頭頂-後頭葉で発生する電位と考えられている。したがって、視床レベルで形成された「光過敏」は大脳皮質のレベルでも保存されて、覚知されることが客観的に示されたと解釈できる。